3行でいうと
- 肖像権とパブリシティ権は、著作権とは別の権利です。政府の資料では、肖像権は「みだりに容ぼうを撮影されない利益」、パブリシティ権は「肖像などが持つ、商品を売る力(顧客吸引力)を独占的に使う権利」と説明されています。声は「肖像等」に含まれると考えられ、パブリシティ権で守られうるとされています。
- パブリシティ権が問題になる使い方として、資料は3つを挙げています。肖像を、見て楽しむ商品そのものに使う、商品を目立たせるために付ける、商品の広告に使う、の3つです。中間とりまとめの本体は、AIで作った画像や声の場合も、判断の物差しは一般の場合と同じで、生成AIに特有の問題はないと整理しています(個別の事案ごとの判断は別に必要、とされています)。
- OpenAIの利用ポリシーは本人の同意のない肖像や声の利用を、OpenAIとGoogleの利用ポリシーはなりすましを、規約として禁じています。規約は法律とは別の話です。法律上の判断は、この記事では出していません。
この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません。この記事は、内閣府の知的財産戦略本部、文化庁、OpenAI、Googleの公式な文書を、2026年10月16日に読んでまとめたものです。法律の助言ではありません。 実際の案件は、弁護士など専門家に聞いてください。
先に結論
- 権利は別々にある。 AIで作った画像が既存の絵に似ているかは著作権の話です。実在する人の顔や声に似ているかは、肖像権とパブリシティ権(それと、後で触れる名誉やなりすましの話)で、判断の物差しが違います。
- 判断の物差しは、読んだ資料では次のように説明されています。 肖像権は、社会生活上、我慢できる範囲を超えるかを、いろいろな事情を合わせて見ます。パブリシティ権は、肖像などの「顧客を引きつける力」を使うことを、専ら(もっぱら)目的としているかどうかを見ます。
- AI生成物でも、判断の物差しは一般の場合と同じ、と整理されています。 政府の検討会は、AI生成物の利用が肖像権やパブリシティ権の侵害になりうる場面を「課題」として挙げ、本体では、判断基準に生成AI特有の問題はないと整理しています。個々の事案での結論は、具体的な事情で変わり、確定したものではありません。なお、文化庁の文書(2024年3月)は、生成AIと著作権を直接扱った判決が、その時点で乏しいと書いています。肖像権やパブリシティ権について、同じ状況かは、僕らは確認できていません。
- 規約は別の線。 OpenAIの利用ポリシーには、同意のない肖像や声の利用を禁じる条項があり、Googleのポリシーには、人をだますなりすましを禁じる条項があります。規約に反した場合の扱い(利用停止など)は、この記事では確認していません。
前提:3つの話を分ける
- 著作権。 絵や音楽などの「作品」を守る権利です。AIの生成物が既存の作品に似ているか、の話です。別の記事で扱っています。
- 肖像権とパブリシティ権。 人の顔や姿、声などの「その人自身」に関わる権利です。作品かどうかは関係ありません。実在の人を描いた写真風の画像が問題になるとき、こちらが出てきます。
- 名誉やなりすまし。 人の評価を下げる表現や、本人のふりをする行為です。肖像権とは別の話です。AIで作った偽の画像や音声では、一緒に問題になることもあると思います(見立てです)。
文化庁の「AIと著作権に関する考え方」は、この記事の主題の1つの端にだけ触れています。作風や声のように、著作権の対象にならない部分が似た生成物が増えることへの懸念を挙げ、また、故意または過失で他人の営業上の利益や人格的な利益を侵害する生成は、不法行為などの責任を負う場合があり得る、と書いています(原典のそれぞれ16ページと25ページ)。ただし、この文書は、肖像権とパブリシティ権という言葉自体は、僕らが読んだ範囲に出てきませんでした。著作権以外は、別の資料を見るよう案内されています。
肖像権:撮影の判例から来る考え方
内閣府の知的財産戦略本部がまとめた「中間とりまとめ」の手引き(権利者向け)の33ページ(紙面の印字は32ページ)には、次のように書かれています。
- 人は、みだりに自分の容ぼうや姿を撮影されないことについて、法律上保護されるべき人格的な利益を持つ。
- 侵害になるかは、いろいろな事情を総合して判断する(僕らが確認できたのは、総合して判断するという点までです)。
- 根拠になる判例は、最高裁の平成17年11月10日の判決(法廷内の写真撮影の事件)。
「中間とりまとめ」の概要では、ディープフェイクの項目で、肖像権による保護の可能性が示され、判断は、社会生活上、我慢できる範囲(受忍限度)を超えるかを総合して行う、と整理されています。
見立てです。この判例は「撮影」についてのものですが、中間とりまとめの本体は、生成AIの場合も同じ物差しで考えるとしています(判例の注記は、撮影が違法かの基準として示されたものと断っています)。個別の事案への当てはめは、僕らは判断できません。手引きの書き方は、あくまで「保護の可能性がある」までです。
パブリシティ権:「顧客を引きつける力」を使うかどうか
同じ手引きの33ページ(紙面の印字は32ページ)は、パブリシティ権を次のように説明しています。
- 肖像などが持つ、商品の販売を促す力(顧客吸引力)を、独占的に使える権利。
- 判例では、人格権に由来する権利の一つとされている。
- 侵害になる場合は、①肖像などを、それだけで見て楽しむ商品として使う、②商品の違いを出すために、肖像などを付ける、③商品の広告に肖像などを使う。
- 根拠になる判例は、最高裁の平成24年2月2日の判決(ピンク・レディーの事件)。
概要では、判断の基準を、肖像などの顧客吸引力を使うことを専ら目的としているかどうか、としています。
ここで大事なのは、「著名な人の顔に似た画像を作った」だけで、パブリシティ権の話になるとは限らない点です。上の3つのような、商売に結びつく使い方かどうかが、軸になっています。
声:肖像ではないが、「肖像等」に含まれると考えられている
手引きの34ページ(紙面の印字は33ページ)には、声について次のようにあります。
- パブリシティ権の対象である「肖像等」は、本人だと分かる情報を指す。
- 声は「肖像」そのものではないが、「肖像等」に含まれると考えられている。
- したがって、上の①〜③に当たる使い方なら、声もパブリシティ権で守られうる。
- 声を使ったなりすましは、詐欺罪、偽計業務妨害罪、名誉毀損などの責任が問題になりうる。
- 民間の取り組みとして、声優などの実演家が、自分の声と、その利用についての意向を登録して、使われ方を追える仕組みが紹介されている。
概要には、声の保護について、知的財産法による保護は限られるとして、著作隣接権、商標権、不正競争防止法が挙がっています。「声の保護」の節は、中間とりまとめの本体にもあります(目次では55ページ)。本体は、声が肖像権で守られる可能性は高いとは言えず、パブリシティ権は声にも及びうる、と整理しています。
国の検討の位置づけ
- 中間とりまとめは、2024年5月28日に公表されました。法的な拘束力はなく、確定的な法的評価を行うものではない、と表紙に書かれています。
- 本体の24ページ付近では、AI生成物に他人の肖像などが含まれ、それを利用する行為が、肖像権やパブリシティ権の侵害になると考えられるか、という点が「課題」として挙がっています。この課題への整理は、本体の後の節(紙面の33〜34ページ)にあり、肖像権もパブリシティ権も、判断基準は一般の場合と同様で、生成AIに特有の問題はないと考えられる、とされています。
- 手引きは、権利者向けです。AIを使う側のための手引きではありません。
- 文化庁のチェックリスト(2024年7月31日)は、著作権に関する点に限ると明記していて、肖像権などは対象外です。
3つの文書の違いと、読めなかった部分
- 中間とりまとめ(本体、内閣府、2024年5月28日)。 肖像権・パブリシティ権の節(紙面33〜34ページ)では、一般の物差しで考え、生成AI特有の問題はないとされています。「声の保護」(紙面55〜57ページ)では、声は肖像権で守られる可能性が高いとは言えず、パブリシティ権は声にも及びうる、とされています。Soraについて、プロンプトの時点で肖像権や知財権の侵害を防ぐ技術的な対応をしている、という紹介(PDFの5ページ)や、米国の俳優の組合の合意(PDFの9ページ)などの記述もありました。
- 同・概要。 「声の保護」と「ディープフェイク」の項目で、保護の可能性と判断の基準が短く整理されています。
- 同・手引き(権利者向け)。 判例の名前と要旨が、PDFの33〜34ページ(紙面の印字は32〜33ページ)にまとまっています。僕らは、判決文そのものを読めていません(裁判所のサイトのページは、取得に失敗しました)。この記事の判例の説明は、手引きの記述を通した、また聞きです。
AI各社の利用ポリシー
法律とは別に、サービスの規約があります。2つを読みました。
OpenAI(利用ポリシー、2025年10月29日施行と書かれたもの)。 本人の同意なく、写真のようにリアルな画像や声を含む、他人の肖像を使うことを、本物かどうか人を混乱させうる形で行うことが、プライバシーの項目で禁じられています。詐欺、なりすましも禁止事項です。「ディープフェイク」という言葉は、この文書には出てきません。同意のない性的な内容は、別に禁じられています。
Google(生成AIの禁止される使い方のポリシー、最終更新2024年12月17日)。 だます目的で、生きている人も亡くなった人も、はっきり示さずにその人になりすますことを禁じています(項目4.2)。「肖像」という言葉は使われていません。近い規定として、法的に必要な同意なく個人データや生体情報を使うなど、他人の権利を侵す行為(1.6)、同意のない性的な画像の生成や配布(1.3)、人が作ったと偽る行為(4.5)が挙がっています。
どちらも、「禁止の条文がある」ということで、法律上の責任の有無を決めるものではありません。ポリシーは変更されることがあります。
確かめる点のチェックリスト(見立てです)
ここからは、読んだ資料を並べたうえでの僕らの見立てです。法律の助言ではありません。
- 実在の人に似ているか。 似ていない架空の人物なら、肖像権・パブリシティ権の話は出にくくなります。ただ、「似ている」の程度の線は、資料には書かれていません。
- 何に使うか。 手引きの3類型(見て楽しむ商品、商品の差別化、広告)に近い使い方は、パブリシティ権の話になりえます。私的に楽しむだけか、公開か、売るのかを、先に分けます。
- 顔か、声か。 声も「肖像等」に含まれうると、手引きにあります。声のクローンは、声優など本業にしている人の場合、論点が大きくなりやすいと思います。
- 本人の同意があるか。 規約の面では、OpenAIは同意のない肖像や声の使い方を、OpenAIとGoogleは本人になりすます使い方を、禁じています。
- 本物と誤解されうるか。 本人がそう言ったように見せる、本人のふりをする、は、名誉やなりすましの話にもなります。AIで作ったと分かる表示を付ける話は、別の記事で扱っています。
- サービスの規約と、ポリシーを読む。 規約違反の場合の扱いは、各社の文書で確かめます(この記事では確認していません)。
- 迷ったら止める。 公開前に、専門家に相談する価値があるのは、実在の著名人、声を職業にしている人、広告や商品に使う場合です。
気をつけること
- この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません。2026年10月16日に、公式な文書を読んだ内容です。
- 判例(最高裁の平成17年と平成24年の判決)の本文は読めていません。手引きの記述を通した、また聞きです。判例の細かい要件や、その後の下級審の判断は、確認できていません。
- 中間とりまとめの本体は、肖像権・パブリシティ権、声、ディープフェイクの節を読みましたが、全体は読んでいません。手引きは権利者向けで、表紙の日付は2024年11月です。
- 中間とりまとめ、手引き、文化庁の考え方は、読んだ範囲で、法的な拘束力がないと書かれていました(文化庁のチェックリストについては確認できていません)。AI生成物の場合も、本体は一般の判断基準と同じと整理していますが、個別の事案でどうなるかは、具体的な事情で変わります。
- 肖像権が一般の人(著名人でない人)の場合にどう扱われるか、子どもの画像、死者の肖像や声については、読んだ範囲では確認できていません。
- 海外のルール(米国の州法、EU)や、日本の他の法律(個人情報、不正競争防止法、刑事の条文)の中身は、この記事では確認していません。名前が挙がっているだけです。
- 内閣府の知的財産戦略本部のサイトには、生成AIの知的財産の保護と透明性についての「プリンシプル・コード」の案内ページもありました。本文は読んでいないので、この記事では扱っていません。
- 各社のポリシーは、更新されることがあります。日付は、読んだ時点の版のものです。
- WebFetchは要約を返すため、原文のままではなく、僕らの言葉に言い換えています。条文や数字の細かい点は、原典で確かめてください。
出典
- AI時代の知的財産権検討会 中間とりまとめ(内閣府 知的財産戦略本部、2024年5月28日公表、10月16日確認)
- 中間とりまとめの手引き(権利者のための手引き)(内閣府 知的財産戦略本部、10月16日確認)
- 中間とりまとめの概要(内閣府 知的財産戦略本部、10月16日確認)
- AIと著作権に関する考え方について(文化庁、2024年3月15日、10月16日確認)
- 生成AIに関するチェックリスト&ガイダンス(文化庁、2024年7月31日、10月16日確認)
- Usage policies(OpenAI、10月16日確認)
- Generative AI Prohibited Use Policy(Google、10月16日確認)
更新履歴
- 2026年10月25日 書き方を直しました。
- 前:運営者が使っていないと読める書き方 → いま:「この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません」。公式の資料を読んでまとめた記事で、使い心地は書いていない、という意味に直した
