3行でいうと
- 30条の4は、おもにAIの学習の段階の条文です。作品を楽しむことが目的でない利用なら、必要な範囲で許諾なしにできます。
- ただし、楽しむ目的も一緒にある場合や、著作権者の利益を不当に害する場合は、使えません。
- 作って公開する段階は別の話です。既存の作品と「似ている」と「もとにした」の両方がそろうと、侵害になりうるとされています。
- AIが作ったものが著作物になるかは、人がどれだけ創作に関わったかで、ケースごとに判断されます。
この記事は、公式・一次資料(法律の条文、文化庁の資料)を読んでまとめたものです。法律の解釈を断定するものではなく、個別の判断は弁護士など専門家にご相談ください。僕らの考えは「見立てです。」と分けて書きます。
先に結論
- 著作権法30条の4は、おもに「AIの開発・学習の段階」で、作品を集めたりコピーしたりすることを扱う条文です。作品を「楽しむ(享受する)」ことを目的としない利用なら、必要な範囲で、著作権者の許諾なしにできる、という内容です。
- ただし、この条文には例外があります。「楽しむ目的」も一緒にある場合や、著作権者の利益を不当に害する場合は、使えません。
- AIで画像や文章を作って、SNSに載せたり売ったりする段階は、30条の4の話ではありません。ふつうの著作権侵害と同じ基準で見られます。文化庁の資料では、既存の作品との「似ている」と「もとにした」の両方がそろうと、侵害になりうるとされています。
- AIが作ったものが「著作物」になるかは、また別の問題で、人がどれだけ創作に関わったかで、ケースごとに判断されます。
何が問題か:3つの場面
文化庁の資料は、AIと著作権を次の3つに分けて考えるよう求めています。
| 場面 | 何をしているか | 関係する主な条文 |
|---|---|---|
| 開発・学習 | 作品を学習用データとして集め、AIを作る | 著作権法30条の4など |
| 生成・利用 | AIで画像などを作り、公開したり売ったりする | 通常の著作権侵害の考え方 |
| AI生成物の著作物性 | AIが作ったものに、作者の権利が生じるか | 著作権法2条1項1号の「著作物」の定義 |
ここを混ぜると、話がかみ合わなくなります。「学習がOKなら、作ったものを自由に公開していい」とはなりません。
30条の4に書かれていること
e-Gov法令検索で条文を読みました(2026年10月8日に取得)。要点は次のとおりです。
- 本文:著作物に表現された思想や感情を、自分で享受し、または他人に享受させることを目的としない場合には、必要と認められる限度で、どんな方法でも利用できる。
- ただし書:著作物の種類や用途、利用のしかたに照らして、著作権者の利益を不当に害することになる場合は、この限りでない。
- 例として、技術の開発・実用化のための試験(1号)、情報解析(2号)、人の知覚による認識を伴わない情報処理(3号)が挙がっています。
- 「情報解析」とは、多数の作品などの大量の情報から、言葉や音、映像などの要素を取り出して、比べたり分類したりすることです。
「享受」は、文化庁の概要資料で、作品を見たり読んだり聴いたりして、知的・精神的な欲求を満たすこと、と説明されています。たとえば文章なら読むこと、音楽なら鑑賞すること、プログラムなら実行することです。作品の対価は、ふつうこの「楽しめること」に払われる、という考え方が背景にあると書かれています。
文化庁の「考え方」が示していること(学習の場面)
文化庁は、文化審議会の小委員会がまとめた「AIと著作権に関する考え方について」(2024年3月15日)を公表しています。裁判の判例がまだ少ないなかで、国の審議会としての考え方を示したものです。法的な拘束力はなく、特定のAIを確定的に評価するものでもない、と文書の冒頭に書かれています。
学習の場面で、30条の4が使えないと考えられる例として、概要資料には次のものが挙がっています。
- 特定の作品に似たものを出させることを目的に、意図的に「過学習」させるための作品集め。
- 特定のクリエイターの少量の作品だけを集めて、その共通する表現を出させるための追加学習。作風はアイデアなので、似ているだけでは侵害にならない。ただし、表現そのものが共通する場合はちがう、とされています。
- 一部の検索拡張生成(RAG。AIが外部の資料を調べて答える仕組み)で、既存の作品の表現をそのまま出させることが目的の場合。
- 「非営利」「研究目的」でも、楽しむ目的が一緒にあれば、許諾が必要。
ただし書(利益を不当に害する場合)については、次の例が示されています。
- 情報解析用に有料で提供されているデータベースを、お金を払わずにAI学習のためにコピーする場合は、該当しうる。
- AI学習のコピーを防ぐ技術的な措置(robots.txtへの記述、ID・パスワードによる認証)があるのに、それを回避してデータを集める場合は、該当し、30条の4の対象外になると考えられる、とされています。
- 海賊版と知りながらデータを集めることは「厳に慎むべき」とされ、AIによる侵害の責任を問われる可能性が高まる、と書かれています。
作って公開する場面は、別の話
ここが、ふつうの人にいちばん関係があります。
文化庁の資料では、AIで作った画像などをSNSに載せたり、複製物を売ったりする場合は、ふつうの著作権侵害と同じ基準で判断されます。
- 侵害になりうる条件:既存の作品との「類似性」(創作的な表現が共通していること)と「依拠性」(既存の作品をもとにしたこと)の両方がある。かつ、許諾なしで使える例外の対象外であること。
- どちらかがなければ、既存の作品の著作権侵害にはなりません。
- 個人が自分で作って楽しむだけなら、私的使用のための複製(著作権法30条1項)などの例外にあたる場合があり、許諾は要りません。
- 「作ること」が適法でも、「公開すること」まで自動的に適法にはなりません。場面ごとに確認が必要です。
「依拠性」について、公式資料には次の点があります。
- 学習データに入っていたかどうかが分からなくても、「利用者がその作品に触れられた」「生成物がとても似ている」などから、依拠性があると推定されうる。
- 学習データに入っていたことが示せれば、利用者がその作品を知らなくても、通常は依拠性があったと推定される。
- AIへの指示(プロンプト)に、既存の作品そのものや、作品の題名、キャラクター名を入れた場合は、利用者がその作品を知っていたことを推測させる事情になり、依拠性が認められやすくなる、とチェックリストに書かれています。
また、他人の作品の画像をAIに入れて、似たものを作らせる使い方(画像から画像を作る機能)は、入力の目的が「似た生成物を作らせること」なら、30条の4が使えない場合がある、とされています。
AIが作ったものに、権利はあるか
著作権法の「著作物」は、思想や感情を創作的に表現したもの、と定義されています(2条1項1号)。文化庁の概要資料によると、考え方は次のとおりです。
- 人がほとんど指示をせず、ボタンを押すだけでAIが作ったものは、著作物にあたらないと考えられる。
- 人が「道具」としてAIを使ったと言えるなら、著作物になり、利用者が著作者になりうる。判断は、創作の意図があるか、創作的な寄与をしたか、によります。
- 判断の例:創作的な表現を具体的に示す詳しい指示は、寄与と評価される可能性を高める。試行回数が多いだけでは、寄与とは言えない。結果を見て指示を直しながら繰り返すような場合は、認められることもある。単に複数から選んだだけでは、寄与にならない。人が創作的な加筆・修正をした部分は、通常、著作物になる。
- 「AIで作ったから一律に著作物」「一律に著作物でない」とは決まらず、個別に判断される。
- 著作者になれるのは人(自然人または法人)だけで、AI自体は著作者になりません。
今日からできる対策
文化庁の「チェックリスト&ガイダンス」(2024年7月31日)の、個人の利用者向けと、仕事での利用者向けの項目から選びました。
- [ ] 使うAIサービスの利用規約を読む。他人の作品を入力することを禁止していることがある。
- [ ] 公開や販売の前に、画像検索や文章検索で、既存の作品に似ていないか確かめる。
- [ ] 特定の作品の題名やキャラクター名を入れて作った場合は、特に慎重にする。
- [ ] 作ったときのプロンプトなど、生成の過程を残しておく。「もとにしていない」ことを説明するのに役立つ、とされている。
- [ ] 他人の作品をAIに入力して似せる使い方は、許諾が要る場合があると知っておく。
- [ ] 作品を売る・契約する場面では、AIを使ったことと、著作物にあたるかどうかを、取引相手に説明できるようにする。
見立てです。「学習は大丈夫そうだから、作ったものも大丈夫」という流れで考えるのが、いちばん危ないと思います。学習の話は主にAIを作る側の話で、ふつうの利用者が気をつけるのは、「似ていないか」と「どこまで公開するか」です。
作品を作る側(クリエイター)の人に向けては、文化庁が相談窓口を設けています。概要資料に、インターネット上の海賊版対策の相談窓口と、文化芸術活動に関する法律相談窓口が案内されています。AIの開発・利用で生じた侵害や、その疑いの事例を集めるためにも使われている、と書かれています。
気をつけること
- この記事は、法律の解釈を断定するものではありません。文化庁の「考え方」は法的拘束力がなく、最終的には裁判所が個別に判断します。実際に困ったときは、弁護士など専門家か、文化庁の相談窓口に相談してください。
- 僕らが読んだ文化庁の資料は、2024年3月から7月のものです。文化庁のページを2026年10月23日に読み直した時点でも、載っていた最新の資料は2024年度のものでした(改定を示す記載は、読んだ範囲では見つかりませんでした)。条文の改正は、e-Govの確認が2026年10月8日時点のため、最新の状況を確かめてください。
- 条文は、e-Govの法令データから取得しました。法律は改正されることがあります。最新の条文は、e-Gov法令検索で確かめてください。
- 外国の法律は、この記事の対象外です。海外のサービスを使う場合や、海外へ公開する場合は、日本の考え方がそのまま当てはまるとは限りません。
- 「著作物に表現された思想又は感情の享受」など、条文の言い回しは難しく、具体的な事例への当てはめは、文化庁の資料でも「ケースバイケース」とされています。
- 2026年10月8日までの裁判例や、個別のAIサービスが実際にどう学習しているかは、確認していません。
出典
- 著作権法(e-Gov法令検索、2026年10月8日確認)
- AIと著作権について(文化庁、2026年10月23日確認)
- AIと著作権に関する考え方について(文化審議会著作権分科会法制度小委員会、2024年3月15日、2026年10月23日確認)
- 「AIと著作権に関する考え方について」【概要】(文化庁著作権課、2026年10月23日確認)
- AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス(文化庁著作権課、2024年7月31日、2026年10月23日確認)
更新履歴
- 2026年10月23日 公式の資料を読み直して、次の点を直しました。
- 前:文化庁のページの最新の資料は2024年度のもの → いま:2026年10月23日に読み直しても、最新の資料は2024年度のものでした
- 前:条文の改正や「考え方」の見直しは確認できていない → いま:改定を示す記載は見つかりませんでした。条文は10月8日時点の確認なので、最新を確かめてください
- 一部の出典は読めなかったため、その部分は前のままです。
