3行でいうと

  • Anthropic、OpenAI、Googleの指南は、役割(AIに持たせる立場)を決めて書くことを勧めています。Anthropicは、役割は口調と振る舞いを絞るもので、一文でも違いが出る、と書いています。
  • ただ、役割を足すと事実問題の正解が増えるかを、162の役割と2,410問で調べた論文は、全体として改善は見られなかった、と報告しています。調べたのはオープンウェイトのモデルで、ChatGPTやClaudeそのものではありません。
  • 僕らの見立ては、役割は「話し方と視点を決める」ために使い、「正しさを上げる」ためには期待しない、です。事実は別に確かめます。

この記事は公式の文書と論文を読んでまとめたもので、実際に使って確かめた記録ではありません。例文は僕らが作ったもので、公式のものではありません。「見立てです」と書いた部分は僕らの考えで、読んだ文書に書かれていることとは分けています。

先に結論

  1. 公式の指南は、役割を書くことを勧めている。 Anthropicは、システムの指示(AIに毎回先に渡される指示)に役割を書くと、振る舞いと口調が絞られる、一文でも違う、と書いています。
  2. ただし、公式の指南は、効果の大きさを示していない。 読んだAnthropicのページには、役割あり・なしを比べた結果は載っていませんでした。
  3. 事実の正解率に限ると、研究では効果が見えなかった。 2024年の論文は、役割を足しても、足さない場合と比べて、全体として改善しなかったと報告しています。
  4. 役割は「衣装」に近いと考えるのが、いまのところ無難。 話し方や立ち位置は変えられても、知っていることが増えるとは限りません(見立てです)。

たとえ話:同じ人が、制服を着る

僕らのたとえです。公式の文書にあるものではありません。

ある人が、お店の制服を着ると、「いらっしゃいませ」と丁寧に話し、白衣を着ると、落ち着いた口調で説明するようになります。話し方や立ち位置は、衣装で変わります。でも、その人が知っていること(商品の知識や、医学の知識)は、衣装を着替えても増えません。

「あなたは〜として」は、AIにこの衣装を着せる頼み方、と考えると分かりやすいです。衣装で、誰に、どんな調子で話すかは決まりやすくなります。一方、衣装を豪華にしても、AIの知識が増えるとは、読んだ資料からは言えません。

このたとえには限界があります。AIの中で何が起きているのかは、読んだ資料には書かれていません。

公式の指南は、何と言っているか

Anthropic(Claude)

Anthropicの「Prompting best practices」には、「役割を与える」という項目があります。書かれていることは、次のとおりです。

このページには、役割がある場合とない場合の出力を比べた結果は載っていませんでした。役割についての注意書きや限界の説明も、読んだ範囲にはありませんでした。

同じページには、別の原則として、理由や背景を添えると、AIがそれに合わせて考えやすくなる、という説明もあります。

OpenAI

OpenAIの開発者向けの文書は、アプリを作る人が書く指示(開発者メッセージ)の冒頭に、「Identity(アイデンティティ)」の部分を置く構成を勧めています。そこに、助手の目的、話し方、目指すことを書きます。例として、コーディング助手と、海賊の口調の助手が出ています。

Google

Googleの開発者向けの文書は、役割やペルソナの定義を、システムの指示か、依頼の冒頭に置くよう書いています。優先して読まれるようにするためです。GoogleのGemini for Workspaceの案内は、ペルソナ(AIが担う役)を4要素の1つに挙げながら、4つ全部は要らない、としています。

Microsoft

Microsoftの学習ページ(2025年7月8日更新と表示)には、AIに役を与える項目は、読んだ範囲にありませんでした。代わりに、「自分が誰で、何を目指しているか」「読む人は誰で、口調はどうか」を伝えるよう勧めています。

見立てです。「AIの役」を決める方法と、「自分と読み手」を伝える方法は、別のやり方です。どちらも、「誰が誰に向けて話すのか」を、AIに教える点は同じです。

研究は何を調べたのか

「役割は効くのか」を測った論文があります。Zheng、Pei、Logeswaran、Lee、Jurgensによる「When "A Helpful Assistant" Is Not Really Helpful」で、2023年11月にarXivに投稿され、2024年にEMNLPのFindingsに掲載されました。

調べた内容は、次のとおりです。

結果は、次のように報告されています。

論文の著者が書いている限界も大事です。

論文の数字と、読み方

論文の本文によると、モデルは、FLAN-T5-XXL、Llama-3(80億と700億のパラメータ)、Mistral-7B-Instruct-v0.2、Qwen2.5(30億から720億)です。問題は、MMLUという試験の26分野から選んだ2,410問で、8つの領域にまとめて分析しています。

モデルによって反応は違いました。Llama-3の700億のものは、悪化する役割が目立ち、Qwen2.5の7Bと72Bは、役割にあまり反応しませんでした。「生態学者」という役割で、Mistralの正解率が下がった、という例も挙げられています。

読むときの注意です。

  • この論文は、2023〜2024年のものです。いまのChatGPTやClaudeのモデルに当てはまるかは、論文からは分かりません。
  • 「事実問題の正解率」を測ったもので、「頼んだ文章の読みやすさ」や「口調の合い方」を測ったものではありません。公式の指南が言う「口調が絞られる」は、この論文では調べられていません。
  • 論文は、役割で「正解が増える」という期待には、根拠が弱いと言っているにとどまります。「役割は意味がない」と言っているわけではありません。

誤解されやすい点

「専門家の役にすれば、専門家の答えになる」 Googleのヘルプは、Geminiの答えを、医療、法律、金融などの専門的な助言として扱わないよう書いています。「弁護士として答えて」と頼んでも、弁護士の判断になるわけではありません。助言ではなく、公式の資料を読んだ範囲のまとめです。

「役割を付ければ、間違いが減る」 読んだ論文では、事実問題の正解は増えませんでした。Geminiのヘルプも、作り話を事実のように示すことがある、と書いています。

「すごい肩書きほど、よく効く」 読んだ資料には、肩書きの豪華さが効くかどうかを調べたものはありませんでした。Anthropicのページも、一文でよい、という書き方です。

「役割は必ず入れるもの」 Googleの案内は、4要素は全部は要らない、としています。簡単な頼みなら、役割は要らないことが多いと、僕らは考えます(見立てです)。

今日からできること、やってはいけないこと

どれも、読んだ資料を土台にした、僕らの整理です。

今日からできること

やってはいけないこと

気をつけること

出典

更新履歴