3行でいうと
- OpenTelemetryのGenAI規約は、モデル名、入出力のトークン数、キャッシュ、終了理由などの記録項目を定める。ただし状態は「開発中」。
- 会話の本文は、規約では「任意(オプトイン)」で、個人情報を含みうる。OpenAI Agents SDKは本文の記録が初期設定でオン。
- Heliconeは、2026年3月3日の公式ブログでMintlifyへの参加と保守モードを発表した。ところが10月22日に読んだ公式サイトには「Mintlifyの一部ではなくなった。詳細は後日」との表示があり、いまの状況は確認できていない。Langfuseは2026年1月にClickHouseの傘下に入った。
この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません。この記事は公式の文書を読んでまとめたものです。価格は2026年10月8日に確認し、主な料金ページは10月22日に読み直しました。変わることがあります。
先に結論
- 最低限、1回のAI呼び出しごとに、モデル名、入力と出力のトークン数、所要時間、終了理由、エラーを記録すると、費用の内訳と失敗の場所を後から追えます。これはOpenTelemetryの規約が推奨する項目と重なります。
- 保存先は、(1)自前で集めて既存の監視に入れる、(2)LLM専用の道具(Langfuse、LangSmithなど)に送る、(3)ゲートウェイ(中継役)で全部の呼び出しを通す、の3系統です。
- 会話の本文を残すかは、費用の話ではなく、情報管理の話です。何を残すか、何日残すかを、導入前に決めます。
前提:言葉の整理
- トレースは、1つの依頼(たとえばチャットの1往復)が、どの順で何を呼んだかの記録です。スパンは、その中の1ステップ(モデルの呼び出し、道具の実行、検索)です。
- メトリクスは、記録を集計した数値です(応答時間、1日のトークン数など)。
- OpenTelemetryは、アプリの動きを記録して送るための、ベンダーに依存しない標準です。セマンティック規約は、その記録の項目名の決まりです。
- ゲートウェイ(プロキシ)は、アプリとAI提供元の間に入る中継役です。通過するすべての呼び出しを記録できます。
標準:OpenTelemetryのGenAI規約
公式の規約は、現在は別のリポジトリ(semantic-conventions-genai)に移っています。OpenTelemetry本体の文書のページには、「移動した」との案内が出ていました。状態は、文書に「Development(開発中)」と明記されています。つまり、項目名は変わりうる、ということです。
モデルの呼び出し(クライアントの推論)のスパンについて、規約が定める主な項目は次のとおりです。
| 区分 | 項目の例 |
|---|---|
| 必須 | gen_ai.operation.name(chatなど)、gen_ai.provider.name |
| 条件つき必須 | gen_ai.request.model(分かるとき)、gen_ai.conversation.id(会話の識別子。使うライブラリやアプリが持っているとき)、error.type(エラーのとき)、プロンプトの名前と版 |
| 推奨 | gen_ai.response.model、gen_ai.usage.input_tokens、gen_ai.usage.output_tokens、キャッシュの読み取りと書き込みのトークン、推論(思考)のトークン、gen_ai.response.finish_reasons、最初の応答までの時間(ストリーミングのとき。gen_ai.response.time_to_first_chunk) |
| 任意(オプトイン) | gen_ai.input.messages、gen_ai.output.messages、gen_ai.system_instructions、gen_ai.tool.definitions |
エージェント向けには、create_agent、invoke_agent、execute_toolといった操作名のスパンも定められています。メトリクスは、呼び出しの所要時間、最初の応答までの時間、入出力のトークン数などです。
大事な点は、会話の本文にあたる項目が「任意」で、規約が「個人情報を含みうる」と注意していることです。
道具の選択肢
| 道具 | 位置づけ(公式資料の説明) | 料金・条件(2026年10月22日確認) |
|---|---|---|
| Langfuse | LLM向けの観測・評価・プロンプト管理。OpenTelemetryの上に作られている。コア機能はMITライセンス | クラウド:Hobby無料(月5万ユニット、30日、2人)、Core月29ドル(月10万ユニット込み、超過は10万あたり8ドル、90日)、Pro月199ドル。自前運用は使用量課金なし |
| LangSmith | LangChain社の観測・評価・配備のサービス。OpenTelemetryでも送れる | Developer:1席、月5千の基本トレース込み、0ドル。Plus:1席あたり月39ドル、月1万トレース込み。自前運用・ハイブリッドはEnterprise |
| Helicone | ゲートウェイ型。接続先のURL(baseURL)を変えるだけで記録できる。Apache 2.0 | Hobby無料(1万リクエスト)、Pro月79ドル、Team月799ドル。オンプレミスはEnterprise |
| OpenAI Agents SDKの追跡 | SDKに内蔵。OpenAIのTracesの画面で見られる。他の送り先へ出す処理も追加できる | 初期設定でオン。OpenAIのゼロデータ保持(ZDR)契約の組織では使えない |
| Anthropicの利用量・費用API | 組織のAPI利用量と費用を、プログラムから取る管理用API | 管理者用のAPIキーが必要。個人アカウントでは使えない |
Langfuse
自前で動かす場合、Docker Composeは「ローカルや試験用」で、1台のVMで可用性・拡張・バックアップはないと書かれています。本番は、Kubernetes(Helm)や各クラウドの手順が案内され、PostgreSQL、Redis(またはValkey)、ClickHouse(観測データ用の高速なデータベース)、S3などのオブジェクトストレージが要ります。費用の記録は、AI側の応答の値を送る方法と、モデルの価格表から推定する方法があり、送った値が優先されます。
課金の単位(ユニット)は、トレース、観測(スパン)、スコアの数の合計です。2026年1月16日に、ClickHouseがLangfuseを買収したと発表され、オープンソースと自前運用は続け、ライセンスの変更の予定はない、と書かれています。
LangSmith
トレースの保持期間は、基本が14日、延長が180日です。公式文書によると、2026年9月14日にSaaSの長期保持の上限が180日になると書かれています(この日付はすでに過ぎています)。オンライン評価や自動化ルールを使うと、基本のトレースが延長に自動で格上げされ、費用が増えることがあると警告されています。超過分の従量料金は、読んだページから確認できていません。
Helicone
公式のブログ(2026年3月3日)で、Mintlifyに買収されたと発表されています。サービスは「当面、保守モードで続く」とされ、セキュリティ更新、新モデルへの対応、不具合や性能の修正は続くとあります。新機能の開発を続けるとは書かれていません。10月22日に読み直したところ、このブログには追記が見つかりませんでしたが、公式の料金ページとトップページには「HeliconeはMintlifyの一部ではなくなった。詳細は後日」という表示がありました。買収が取り消されたのか、別の形になったのかは書かれておらず、保守モードが続いているかどうかも、読んだ範囲では確認できません。GitHubのREADMEには、この件の記述は見つかりませんでした。Heliconeを選ぶ前に、公式の最新の案内を見てください。
費用の見積もり
Langfuseのユニット数と月額の計算例(仮の数字です)
僕らの計算です。回数は僕らが置いた仮の数字で、Langfuseの公式の料金表(2026年10月8日に読み、10月22日に一部を読み直し)をもとにしています。クラウドのCoreプラン(月29ドル、10万ユニット込み)です。超過は、10万〜100万ユニットが10万あたり8ドル、100万〜1,000万ユニットが10万あたり7ドルです(10月22日に料金ページの階層表で読み直しました)。
1回の依頼で、トレース1、観測(モデルの呼び出し、道具の実行、検索など)が9、スコア1なら、11ユニットです。月2万回の依頼なら、22万ユニット。10万を超える12万ユニットが8ドル×1.2=9.60ドルで、合計38.60ドルです。
複数のエージェントを使い、1回の依頼が観測50(合計51ユニット)に増えたとします。月2万回で102万ユニット。10万〜100万の90万ユニットが72ドル、100万〜の2万ユニットが7ドル×0.2=1.40ドル。合計は29+72+1.40=102.40ドルです。
読み取れることは、記録の粒度(スパンの数)が、そのまま課金の単位になる、ということです。月100万ユニットなら、同じ表で29+72=101ドルになります(僕らの計算です。10月22日の料金ページには、この例そのものは見つかりませんでした)。
何を残すか:最小の記録項目
見立てです。OpenTelemetryの規約と、Langfuse、LangSmith、OpenAIの文書に共通する項目から、最低限として僕らは次を残す案を考えました。
- 依頼の識別子、会話(セッション)の識別子、アプリの版、環境(本番か試験か)
- 利用者の識別子(個人が特定できない形に変えたもの)
- モデル名(要求と応答)、プロンプトの名前と版
- 入力・出力・キャッシュのトークン数、推論のトークン数
- 所要時間、最初の応答までの時間、終了理由、エラーの種類
- 道具の名前と実行時間、失敗の有無
- 機能の名前(どの画面や処理か)。費用を機能別に分けて見るため
本文は、残す場合も、期間を決めて消します。
つまずきやすい点
- 本文が初期設定で残る。OpenAI Agents SDKは、モデルの入出力と道具の入出力を追跡に含め、既定でオンです。切るには設定(
trace_include_sensitive_dataなど)が要ります。使うつもりのない送り先に流れていないか、確認が必要です。 - 保持期間と費用の関係。LangSmithのように、使う機能で保持が延びて費用が増える仕組みがあります。
- 規約の変更。OpenTelemetryのGenAI規約は開発中で、項目名が変わる可能性があります。
- 道具の運営の変化。Heliconeのように、買収で開発の方針が変わり、その後も状況が動く例があります。他の道具も、公式の発表を定期的に見ます。
- 個人情報のマスク。LangSmithは、OpenTelemetryの中継(コレクター)で送る前に機微な情報を伏せる方法を文書化しています。
気をつけること
- この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません。内容は公式の文書、料金ページ、発表に基づきます。
- 料金は、Langfuse・LangSmith・Heliconeの料金ページを10月22日に読み直した値で、変わることがあります。LangSmithの従量料金は確認できていません。
- Langfuseの「ユニット」の計算は、僕らの仮の例です。実際の使用量は、記録の設定で変わります。
- OpenTelemetryのGenAI規約は「開発中」です(10月22日に読んだ推論スパンの文書でも、安定版と書かれていたのは
error.typeなどごく一部でした)。細かい項目名は、必ず最新の文書を見てください。 - Arize Phoenixなど、ここで取り上げていない道具は読んでいません。性能の比較はしていません。
- 個人情報や機微な情報の保存、保持期間の法的な要件は、この記事では扱っていません。個別の判断は専門家に相談してください。
出典
- OpenTelemetry GenAI semantic conventions: README(OpenTelemetry、2026年10月8日確認)
- Client Inference(OpenTelemetry GenAI semantic conventions、2026年10月22日確認)
- Agent spans(OpenTelemetry GenAI semantic conventions、2026年10月8日確認)
- Generative AI semantic conventions: moved(OpenTelemetry、2026年10月22日確認)
- Pricing(Langfuse、2026年10月22日確認)
- Self-Hosted Pricing(Langfuse、2026年10月8日確認)
- Billable Units(Langfuse Docs、2026年10月22日確認)
- Observability Data Model(Langfuse Docs、2026年10月8日確認)
- Token & Cost Tracking(Langfuse Docs、2026年10月8日確認)
- Self-host Langfuse(Langfuse Docs、2026年10月22日確認)
- Langfuse joins ClickHouse(Langfuse、2026年1月16日、2026年10月8日確認)
- LangSmith Plans and Pricing(LangChain、2026年10月22日確認)
- Usage and billing(LangSmith Docs、LangChain、2026年10月22日確認)
- Trace with OpenTelemetry(LangSmith Docs、LangChain、2026年10月8日確認)
- Redact sensitive data with the OpenTelemetry Gateway architecture(LangSmith Docs、LangChain、2026年10月8日確認)
- Helicone Pricing(Helicone、2026年10月22日確認)
- Helicone is joining Mintlify(Helicone、2026年3月3日、2026年10月22日確認)
- Helicone README(GitHub、Helicone、2026年10月22日確認)
- Tracing(OpenAI Agents SDK、OpenAI、2026年10月22日確認)
- Usage and Cost API(Claude Platform Docs、Anthropic、2026年10月22日確認)
- How we built our multi-agent research system(Anthropic、2025年6月13日、2026年10月8日確認)
更新履歴
-
2026年10月25日 書き方を直しました。
- 前:運営者が使っていないと読める書き方 → いま:「この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません」。公式の資料を読んでまとめた記事で、使い心地は書いていない、という意味に直した
-
2026年10月22日 公式の資料を読み直して、次の点を直しました。
- 前:Heliconeは買収され、保守モードで続く → いま:公式サイトに「Mintlifyの一部ではなくなった。詳細は後日」とあり、いまの状況は確認できない
- 前:保守モードで続くと読める → いま:買収が取り消されたのか、保守モードが続くのかも、読んだ範囲では分からない
- 前:
gen_ai.request.modelなどは条件つき必須 → いま:それぞれ「分かるとき」「持っているとき」「エラーのとき」という条件がつく - 前:最初の応答までの時間は推奨の項目 → いま:ストリーミングのときの項目で、名前は
gen_ai.response.time_to_first_chunk - 前:Langfuseの100万〜1,000万ユニットは7ドル → いま:10万ユニットあたり7ドル
- 前:月100万ユニットで101ドルは公式の例 → いま:同じ表で計算した値。料金ページには、この例そのものは見つからなかった
