3行でいうと
- 原典の第2条は、EUの外の会社でも、AIの出力がEU内で使われる場合などを適用対象にしている。
- 原典では2026年8月2日から全面適用。2026年7月発効の改正で、高リスクAIの一部は2027年12月2日と2028年8月2日になった。
- 違反の罰金は、禁止行為で最大3,500万ユーロまたは売上高の7%など。個別の判断は専門家に。
この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません。この記事は、法令の原典と公式ページを読んでまとめたものです。法律の紹介であり、法的助言ではありません。自社が対象か、何をすべきかは、EU法に詳しい弁護士などの専門家に相談してください。
先に結論
- EU AI規則は、EUの会社だけの法律ではありません。原典の第2条1項は、EUの外にいる提供者や配備者でも、AIシステムが作る出力がEU内で使われる場合は対象になる、と書いています((c)号)。
- 日付は、2026年7月に変わりました。「AIオムニバス」と呼ばれる改正規則(Regulation (EU) 2026/1744、2026年7月8日付)が2026年7月27日に発効しました。
- ただし、僕らは改正規則の条文そのものは読めていません。改正の内容は、欧州委員会の公式ページの説明で確認しました。
前提:用語
- EU AI規則は、AIの開発・提供・利用に、リスクの大きさに応じた規則を課すEUの法律です。「規則(Regulation)」は、EU全加盟国にそのまま適用されるタイプの法令です。
- AIシステムは、原典の定義では、入力から予測、コンテンツ、推奨、判断などの出力を作り、物理的または仮想の環境に影響しうる、機械ベースのシステムです(第3条(1)の要約)。
- 提供者(provider)は、AIシステムやAIモデルを開発する、または開発させ、自分の名前や商標で市場に出す・使えるようにする者。配備者(deployer)は、権限のもとでAIシステムを使う者(個人的で非職業的な利用を除く)です(第3条(3)(4)の要約)。
- 高リスクAIは、規則が特に重い義務をかけるAIです。付属書IIIに、利用分野が列挙されています。
- 汎用目的AIモデル(GPAI)は、ChatGPTやClaudeのような、さまざまな用途に使える大きなAIモデルを指す言葉として使われます。
日本の会社に関係しうる部分
原典の第2条1項は、規則の対象として、次の者などを挙げています。
- (a) AIシステムをEUで市場に出す、またはサービスに供する提供者、GPAIモデルをEUで市場に出す提供者。EU内にいるか第三国にいるかを問わない。
- (b) EU内に拠点・所在地がある配備者。
- (c) 第三国に拠点・所在地がある提供者・配備者で、AIシステムが作る出力がEU内で使われる場合。
見立てです。日本の会社が関係しうる場面は、たとえば次の3つだと思います。ただし、実際に対象かどうかは、事業の中身と契約によって変わります。
| 場面 | 関係しうる点(見立て) |
|---|---|
| EUの顧客向けに、AIを組み込んだサービスやチャットボットを提供する | 提供者として、第50条の「AIと話していることの表示」などが問題になりうる |
| EUの拠点・子会社でAIを業務に使う | EU内の配備者にあたりうる。AIリテラシーなど |
| 自社で大きなAIモデルを作り、EUで提供する | GPAIの提供者の義務(第53条)が問題になりうる |
いつから何が適用されるか
原典の第113条は、2026年8月2日から適用すると定めたうえで、例外を置いていました。欧州委員会の説明では、2026年7月27日に発効した改正で、一部の日付が変わっています。
| 日付 | 内容 | 出所 |
|---|---|---|
| 2024年8月1日 | 規則が発効 | 欧州委員会のページ |
| 2025年2月2日 | 第1章(総則)・第2章(禁止行為)が適用。AIリテラシー(第4条)を含む | 原典第113条(a)、欧州委員会のページ |
| 2025年8月2日 | GPAIモデルの義務、ガバナンス規定、罰則規定などが適用 | 原典第113条(b)、欧州委員会のページ |
| 2026年8月2日 | 規則の大部分が適用。第50条の透明性義務を含む | 原典第113条、欧州委員会のページ |
| 2026年12月2日 | 改正で追加された禁止(同意のない性的な画像・児童性的虐待コンテンツの生成)が適用。第50条(2)の機械可読な表示は、2026年8月2日より前に市場にあるシステムに限り、この日まで猶予 | 欧州委員会の公式ページ(AI Act Service Desk) |
| 2027年12月2日 | 付属書IIIの高リスクAIの規則が適用 | 欧州委員会の公式ページ |
| 2028年8月2日 | 付属書Iの法令(機械、玩具、昇降機などの製品)に組み込まれる高リスクAIの規則が適用 | 欧州委員会の公式ページ |
見立てです。原典の第113条(c)は、第6条1項(製品に組み込まれる高リスクAI)に関する義務を2027年8月2日からとしていました。改正でこれが2028年8月2日になった、と読めます。付属書IIIの高リスクAIは、原典では2026年8月2日からでした。
リスクの4段階と、禁止行為
欧州委員会のページは、4段階に整理しています。
- 許容できないリスク:禁止。原典の第5条は、潜在意識に働きかける操作、年齢や障害などの弱みにつけ込む操作、社会的行動の評価(ソーシャルスコアリング)、顔画像のネットや監視カメラ映像からの無差別な収集による顔認識データベースの作成、職場と教育機関での感情推定(例外あり)などを列挙しています。
- 高リスク:健康・安全・基本的人権に重大な影響を与えうる利用。付属書IIIには、生体認証、重要インフラ、教育、雇用(採用の選考や評価など)、必須サービス(与信、保険の価格設定など)といった分野があります。
- 透明性リスク:AIと話していることの表示、AI生成物の表示など。
- 最小または無リスク:特別な規則はない。
見立てです。社内でAIを使う多くの日本の会社にとって、まず確認しやすいのは、「採用の書類選考や社員評価にAIを使っていないか」(付属書IIIの雇用の分野)と、「EU向けにAI生成の文章や画像を公開していないか」(第50条)だと思います。
第50条:透明性の義務(要約)
原典の第50条は、次を定めています。
- 提供者は、人と直接やりとりするAIは、AIと話していることが分かるように設計する(明らかな場合を除く)。
- 提供者は、AIが作る音声・画像・動画・テキストを、機械可読な形でAI生成と検出できるようにする。標準的な編集の補助などは除く。
- 配備者は、感情認識や生体分類の仕組みを使う場合、対象者に知らせる。
- 配備者は、ディープフェイクの画像・音声・動画は、AI生成・加工と開示する。公共の関心事を知らせる目的で公開するAI生成テキストも開示する。ただし、人間の編集責任があり、人が確認した場合は除かれる。
芸術・風刺・フィクションなどの作品の場合は、開示を作品の鑑賞を妨げない形にできる、という規定もあります。
罰金と、GPAIの義務
罰金(原典第99条)
- 禁止行為(第5条)の違反:最大3,500万ユーロ、または企業の場合は前年度の全世界売上高の7%の、いずれか高い額。
- 提供者・配備者などの義務(第50条の透明性義務を含む)の違反:最大1,500万ユーロ、または売上高の3%のいずれか高い額。
- 当局への不正確な情報の提供:最大750万ユーロ、または売上高の1%のいずれか高い額。
- 中小企業(スタートアップを含む)は、各項の金額と割合のうち、低いほうが上限。
罰則の具体的な運用は、加盟国が定める規則に委ねられている部分があります(第99条1項)。改正で罰金の規定が変わったかどうかは、確認できていません。
GPAIの提供者の義務(原典第53条)
- 技術文書の作成と保管(AIオフィスや当局の求めに応じて提供)。
- AIシステムにこのモデルを組み込む提供者への情報・文書の提供。
- EUの著作権法に従う方針の整備。
- 学習に使った内容の十分に詳しい要約の公開(AIオフィスの雛形に従う)。
オープンソースのライセンスで公開されるモデルは、(a)(b)の義務が免除されることがありますが、「システミックリスクのあるGPAIモデル」には免除が及びません(第53条2項)。2025年8月2日より前に市場に出たGPAIモデルは、2027年8月2日までに対応します(第111条3項)。GPAIモデルの提供者への罰金は、欧州委員会が科すもので、最大で売上高の3%または1,500万ユーロのいずれか高い額です(第101条)。
2026年7月の改正(AIオムニバス)で変わったこと
欧州委員会の公式ページは、次の点を挙げています。
- 高リスクAIの適用日の延期(上の表のとおり)。
- 中小企業向けの簡素化を、「小規模の中堅企業(small mid-cap)」にも広げる。
- AIリテラシーの要件の簡素化。欧州委員会と加盟国が、リテラシー促進の役割を強める。
- 同意のない性的な画像や児童性的虐待コンテンツを生成するAIの禁止の追加。
- バイアスの検出・是正のための特別カテゴリの個人データの処理を認める。
- AIオフィスによる、汎用モデルに基づくAIシステムなどの監督の拡大。
AIリテラシーについては、原典の第4条は「十分なレベルのAIリテラシーを確保するための措置を、できる限り講じる」という書き方です。改正後の条文は、僕らは読めていません。
読み方・選び方
見立てです。確認の順番は、次のようにすると進めやすいと思います。
- EUに向けて提供している、またはEUで出力が使われるAIがあるか(第2条)。
- その中に、禁止行為や付属書IIIの分野(採用、与信など)に近いものがないか。
- 文章・画像・音声を生成して公開するなら、第50条の表示の義務。
- 日付は、必ず公式ページで最新のものを確認する。
見立てです。2026年7月の改正で、高リスクAIの猶予は延びましたが、禁止行為、AIリテラシー、GPAI、第50条の多くはすでに適用されています。「延期になったから、まだ何もしなくていい」とは言えない項目があると思います。
よくあるつまずき
見立てです。
- 古い日付を使う。2024年や2025年の解説記事には、高リスクAIが2026年8月から、という説明が多く残っていると思います。2026年7月の改正を反映した公式の日付を確認してください。
- 「日本の会社だから関係ない」と決める。第2条(c)は、出力のEU内での利用を基準にしています。
- 「社内でChatGPTを使うだけだから対象外」と決める。EUの拠点で使う場合は、配備者にあたりうる、と読めます。ただし、判断は専門家に。
- 一般向けの説明記事を、原典と同じ重さで読む。条文の細部は、原典が基準です。
気をつけること
- この記事では、この規則への対応を行って確かめていません。原典と公式ページを読んでまとめたものです。
- 原典は、欧州連合の公式サイトの2024年版(官報掲載時のテキスト)を読みました。2026年7月の改正規則(2026/1744)は、EUR-Lexのページで表題と日付を確認しただけで、条文は読めていません。改正後の条文の細かい文言は、確認できていません。
- 適用日の表のうち、2026年12月2日・2027年12月2日・2028年8月2日は、欧州委員会の2つの公式ページ(規制の枠組みのページと、AI Act Service Deskの日程表)で確認しました。
- 罰金額は原典のものです。改正で変わったかどうかは、確認できていません。
- この記事は、法令の紹介であり、法的助言ではありません。自社への当てはめは、専門家に相談してください。
- 日付や解釈は、追加の改正、欧州委員会のガイドライン、加盟国の運用で変わることがあります。
出典
- Regulation (EU) 2024/1689(AI Act)の原典テキスト、官報版(欧州連合出版局、2026年10月8日確認)
- Regulation (EU) 2024/1689 EUR-Lex 表題ページ(EUR-Lex、2026年10月23日確認)
- Regulation (EU) 2026/1744(Digital Omnibus on AI)EUR-Lex ページ(EUR-Lex、2026年10月23日確認)
- AI Act(欧州委員会、2026年10月23日確認)
- AI Omnibus enters into force(欧州委員会、2026年7月27日、2026年10月23日確認)
- Timeline for the Implementation of the EU AI Act(AI Act Service Desk、欧州委員会、2026年10月23日確認)
更新履歴
-
2026年10月25日 書き方を直しました。
- 前:運営者が使っていないと読める書き方 → いま:「この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません」。公式の資料を読んでまとめた記事で、使い心地は書いていない、という意味に直した
-
2026年10月23日 公式の資料を読み直しましたが、書いてあることに変わりはありませんでした。
- 一部の出典は読めなかったため、その部分は前のままです。
