3行でいうと

  • 優れたアイデアそのものより、アイデアが育つ仕組みと文化をつくることが重要だ
  • 決定権のない仲間が率直に意見を言い合う「ブレイントラスト」が作品を良くする
  • 初期のアイデアは粗い「醜い赤ん坊」なので、早く切り捨てず育てる
  • 失敗を罰せず、成功も失敗も率直に振り返る事後分析で、学びを次に生かす

向いている人

チームや組織で創造的な仕事を進める人、会議で率直な意見が出にくいと感じている管理職に向きます。

読む意味

創造性を個人の才能ではなく、組織の仕組みの問題として考える視点が得られます。仕組みの多くが、決定権のない場での率直な意見交換や、失敗の振り返りといった、他の組織にも移せる形で示されています。

どんな本か

ピクサー・アニメーション・スタジオの共同創業者で、2006年にディズニーがピクサーを買収したあとはディズニー・アニメーションの経営も担ったエド・キャットムルが、ジャーナリストのエイミー・ワラスと2014年に出した本です。日本語版は同年にダイヤモンド社から出ました。研究者から経営者になった著者が、「創造性を発揮し続ける組織」をつくる考え方を、ピクサー社内の具体的な話を交えて描きます。立場は一貫していて、優れたアイデアよりも、アイデアが育つ組織の仕組みや文化のほうが大切だというものです。

中心にあるのは、制作中の作品について監督やスタッフが集まって率直に意見を交わす「ブレイントラスト」です。参加者に決定権はなく、最終判断は監督が下すので、批判者ではなく協力者として意見を言えるとされます。制作の初期のアイデアは完成形とは程遠い「醜い赤ん坊」だと捉え、早く切り捨てずに育てる忍耐と仕組みの必要も語ります。『トイ・ストーリー2』は公開の9か月前に脚本が行き詰まり、短期間で作り直した危機の事例として詳しく描かれます。

ほかにも、作品が完成するたびにうまくいかなかった点まで振り返る事後分析、職種を問わず絵画や即興演劇などを学べる社内教育のピクサー大学、全社員が会社の課題を話し合うノーツ・デイ、失敗への恐怖が創造的な挑戦を萎縮させるという考えなどが紹介されます。後半はディズニー・アニメーションの再建、終盤は共同創業者スティーブ・ジョブズとの関係にも触れます。

中身の柱

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概要

ピクサー・アニメーション・スタジオの共同創業者であり、2006年のディズニーによる買収後も同社社長を務めたエド・キャットムルが、ジャーナリストのエイミー・ワラスと共著で2014年に発表した書籍。コンピュータグラフィックス研究者としてユタ大学で学び、ルーカスフィルムを経てピクサーを共同設立し、2006年にディズニーが約74億ドルの全株式交換によりピクサーを買収した後にウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオの社長も兼務した著者が、長年の経験から得た「創造性を発揮し続ける組織」を作るための考え方を、ピクサー社内の具体的なエピソードとともに描いている。優れたアイデアそのものよりも、アイデアが育つための組織の仕組みや文化を作ることの方が重要だという立場から論じられている。

本の構成

著者自身のキャリア(コンピュータグラフィックス研究者からピクサー創業に至る経緯)を振り返る前半部分、ピクサー社内で実践されてきた具体的な仕組み(ブレイントラスト、事後分析、ピクサー大学など)を紹介する中盤、ディズニー・アニメーション・スタジオの経営再建に携わった経験を描く後半部分、そして2011年10月5日に膵臓神経内分泌腫瘍により56歳で死去した共同創業者スティーブ・ジョブズとの関係や彼の晩年について触れる終盤という構成になっている。なお、ピクサーが1995年11月22日に世界初のフルCGアニメーション長編映画『トイ・ストーリー』を公開したことが、著者らの取り組みの出発点として本書全体の前提になっており、監督ジョン・ラセターは1996年の第68回アカデミー賞で同作の技術的功績によりアカデミー特別業績賞を受賞している。

主要な内容(詳述)

  • ブレイントラスト(Braintrust): 制作中の作品について、監督やスタッフが定期的に集まり率直な意見を交換する会議の仕組み。参加者には決定権がなく、あくまで監督が最終判断を下すことを前提とすることで、批判者ではなく協力者として率直な意見を出しやすくしている。著者は、この仕組みが機能する条件として、率直さ(candor)を安全に発揮できる心理的な土壌が不可欠だとする。ブレイントラストは、『トイ・ストーリー』制作時のジョン・ラセター、アンドリュー・スタントン、ピート・ドクター、リー・アンクリッチ、ジョー・ランフトらの協働関係の中から徐々に形成され、後の作品群を通じて制度化されていった経緯を持つ。
  • 「醜い赤ん坊」("ugly babies"): 制作初期のアイデアや作品は、完成形からは想像もつかないほど粗削りで不完全な状態にあるとし、これを「醜い赤ん坊」と呼ぶ。組織はこうした未成熟なアイデアを早い段階で切り捨てず、育てていく忍耐と仕組みを持つ必要があるとする。
  • トイ・ストーリー2の制作危機: 1999年11月24日に全米公開された続編『トイ・ストーリー2』の脚本が、公開のわずか9か月前に根本的に破綻していることが判明し、ジョン・ラセターが監督として陣頭指揮を執り、週末2日間の「ストーリー・サミット」でプロットを一から練り直したうえ、スタッフが9か月という異例の短期間で脚本と映像を作り直した実話が、率直なフィードバックの重要性と、危機的状況でチームが結束して問題解決に当たった事例として詳述される。
  • 事後分析(Postmortem): 一つの作品が完成するたびに、うまくいった点だけでなくうまくいかなかった点についても率直に振り返る会議を制度化しており、成功体験に安住せず継続的に組織の課題を洗い出す仕組みとして機能している。
  • ピクサー大学(Pixar University): 職種を問わず全社員が業務時間中に様々なスキル(絵画、彫刻、即興演劇など)を学べる社内教育プログラムを設け、部門を超えた交流や、失敗を恐れず新しいことに挑戦する文化の醸成に役立てている。
  • ノーツ・デイ(Notes Day): 全社員が業務を止めて、会社が抱える課題について自由に意見を出し合う全社的なイベントを実施し、経営陣だけでは気づけない現場の課題や改善策を吸い上げる試みとして紹介される。
  • 恐怖のマネジメント: 失敗への恐怖がクリエイティブな挑戦を萎縮させる最大の要因であるとし、失敗を罰するのではなく、失敗から学び次に活かすプロセスを重視する組織文化の重要性を説く。
  • ディズニー・アニメーションの再建: ピクサーによる買収後、著者が1983年からルーカスフィルムでインターフェースデザイナーとして加わり、1986年以降ピクサーのアニメーション部門を率いてきたジョン・ラセター(買収後は両社の最高クリエイティブ責任者に就任)とともにディズニー・アニメーション・スタジオの経営に関与し、『ボルト』(2008年)『塔の上のラプンツェル』(2010年)『アナと雪の女王』(2013年)といった作品を通じて組織文化を立て直していった経緯が描かれる。キャットムル自身は2018年10月に退任を発表し、2019年7月まで顧問として残った。
  • ランダム・アクセス・シアター: 経営陣が現場から距離を置かず、日常的にスタジオ内を歩き回り、様々な部署のスタッフと偶発的に会話する機会を重視する考え方が語られ、階層を超えたインフォーマルな情報共有の重要性が示される。

具体例

『トイ・ストーリー2』の脚本作り直し危機、ブレイントラスト会議の実際の運用、ピクサー大学の授業内容、ノーツ・デイでの全社的な議論、ディズニー・アニメーション再建期の作品群(『ボルト』『塔の上のラプンツェル』『アナと雪の女王』)、共同創業者スティーブ・ジョブズとの関係のエピソードなどが紹介されている。

実践への応用

制作物や企画について決定権を持たない第三者が率直な意見を言い合える定例の場(ブレイントラストのような仕組み)を設けること、未成熟なアイデアを早期に潰さず育てる時間と心理的余裕を組織に持たせること、プロジェクト完了後に成功・失敗の両面を率直に振り返る事後分析を制度化すること、部門を超えた学びの機会を提供し組織内の交流を促すこと、失敗を罰するのではなく学びの機会として扱う文化を作ることなどが、実務への応用として挙げられる。

位置づけ・評価

刊行後、経営書・組織論の分野でベストセラーとなり、シリコンバレーやクリエイティブ業界の経営者・マネージャーに広く読まれた一冊とされている。ニューヨーク・タイムズ紙は本書を「ショービジネス業界にとって新たなバイブルになりつつある」と評したほか、ウォール・ストリート・ジャーナル紙やフィナンシャル・タイムズ紙などでも好意的に紹介された。日本でも2014年11月4日にダイヤモンド社から邦訳『ピクサー流 創造するちから』が刊行され、組織における心理的安全性やイノベーションのマネジメントを論じる文脈でしばしば参照される著作となっている。