3行でいうと
- 優れた製品を作るのと同じくらい、顧客に届ける方法を体系的に考えることが重要だ
- 開発と同じだけの時間と資源を、顧客獲得に振り向ける「50%ルール」を提案する
- 19のチャネルから候補を出し、低コストで試し、効いたものに集中する
- チャネルは「コスト・対象性・独自性」で見極め、効果が薄れたら次を探す
向いている人
製品はあるが顧客が増えないスタートアップの経営者や、新規事業の集客を考える人に向きます。
読む意味
思いつきで一つの手段に賭けず、候補の洗い出しから集中までを手順にできます。各チャネルに実例が添えられているので、自社に近いものを探しやすい構成です。
読むときの注意
特定のチャネル(SEOやSNS運用など)に特化した専門書ではなく、どこに力を注ぐか決めるための枠組みの本である点に、書評は注意を促しています。
どんな本か
優れた製品を作ることと同じくらい、その製品をどう顧客に届けるか、つまり「トラクション(顧客獲得の勢い)」を体系的に考えることが重要だと説く、スタートアップ向けの実践書です。共著者のガブリエル・ワインバーグは検索エンジンDuckDuckGoを創業した人で、ジャスティン・メアーズは食品ブランドのKettle & Fireや3DプリントサービスのCloudFabの創業に関わった人です。
本書は、多くのスタートアップが「作れば人が集まる」と思い込む危険を指摘するところから始まります。そのうえで「50%ルール」を示し、開発と同じだけの時間と資源をトラクションの獲得に充てるよう戒めます。顧客を獲得する手段は、バイラルマーケティング、広報、SEO、コンテンツマーケティング、メール、直接営業、アフィリエイト、提携、イベントなど19のチャネルに整理され、無料ツールなどの役立つ成果物で見込み客を集める「Engineering as Marketing」のように見落とされがちな手段にも触れます。
核になるのは「Bullseye(的)」と呼ぶ3段階の絞り込みです。まず19のチャネルすべてを候補に出し、有望そうなものを低コストで並行して試し、手応えのあったものにリソースを集中します。チャネルが頭打ちになったら、また候補出しに戻ります。評価は、獲得数をトラフィック量とコンバージョン率に分けて考え、顧客獲得コストや顧客生涯価値とも比べて行い、新しいチャネルの検証には予算の一定割合(目安は5〜25%)を継続して回すよう勧めます。
中身の柱
- 「作れば集まる」という思い込みの危険と、50%ルール
- 顧客を獲得する19のチャネルの紹介
- Bullseye:候補を出し、試し、集中する3段階
- チャネル選びの3つの基準:コスト・対象性・独自性
- 継続的な検証と、チャネルの移行のしかた
あわせて読む本
- ゼロ・トゥ・ワン販売・流通の重要性を説く起業論
- HACKING GROWTH成長のための施策を試す方法を扱う
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概要
優れた製品を作ることと同じくらい、その製品をどう顧客に届けるか(トラクション=顧客獲得の勢い)を体系的に考えることが重要だと説くスタートアップ向けの実践書。共著者のガブリエル・ワインバーグは、以前に立ち上げたソーシャルネットワーク「ネームズ・データベース」を含む複数の検索系スタートアップの試みを経て、2007年のステンドグラス教室で検索体験を改善するアイデアを得て2008年に検索エンジンDuckDuckGoを創業し、2011年10月にユニオン・スクエア・ベンチャーズがシリーズAを主導するまで自己資金で運営を続け、2010年からプライバシー重視を競合との差別化軸に据え、2013年6月時点で1日300万件の直接検索を記録するまでに同社を成長させた人物で、ジャスティン・メアーズは骨だしスープ食品ブランドKettle & Fireや3DプリントサービスCloudFabの創業に関わった人物である。両者の実務経験をもとに、顧客獲得の手段を19のチャネルに整理したうえで、限られたリソースの中でどのチャネルに集中すべきかを検証していくための具体的な方法論(Bullseyeフレームワーク)を提示している。
本の構成
なぜ多くのスタートアップが優れた製品を持ちながら成長できずに終わるのかという問題提起から始まり、「プロダクトを作れば人が集まる(Build it and they will come)」という思い込みの危険性を指摘したうえで、顧客獲得のための19のチャネルの紹介、そしてどのチャネルが自社に最も適しているかを効率よく見極めるためのBullseyeフレームワークへと展開する構成になっている。各チャネルの章では、そのチャネルを実際に使いこなした具体的なスタートアップの事例が添えられている。
主要な内容(詳述)
- 50%ルール: スタートアップは開発と同じだけの時間・リソースを顧客獲得(トラクション)に充てるべきだという考え方を提示し、多くの創業チームがプロダクト開発に偏重するあまりトラクションの獲得を後回しにしてしまう傾向を戒める。
- 19のマーケティングチャネル: バイラルマーケティング、広報(PR)、規格外な広報活動(Unconventional PR)、検索エンジンマーケティング(SEM)、ソーシャル広告・ディスプレイ広告、オフライン広告、SEO、コンテンツマーケティング、メールマーケティング、エンジニアリングを活用した施策(Engineering as Marketing)、ブログでの露出(ターゲットブログ)、事業提携(ビジネス開発)、直接営業、アフィリエイトプログラム、既存のプラットフォーム(Webサイト・アプリストア・SNS)の活用、展示会、オフラインイベント、講演、コミュニティ構築という、顧客獲得の手段を網羅的に19種類に整理する。無料ツールや計算機など役立つ副産物を公開して見込み客を集める「Engineering as Marketing」や、意図的に話題を呼ぶ挑発的な企画を仕掛ける「Unconventional PR」など、見落とされがちなチャネルにも個別に光を当てている点が特徴。
- Bullseyeフレームワーク: すべてのチャネルを一度に試すのではなく、まず19のチャネルすべてを候補としてブレインストーミングし(外側の輪)、その中から有望そうなチャネルを複数ピックアップして低コストで並行検証し(内側の輪=Promising)、実際に手応えのあったチャネルにリソースを集中させ(中心の的=Bullseye)、そこに全力を注ぐという3段階の絞り込みのプロセスを提示する。一つのチャネルが頭打ちになった段階で再び候補出しに戻り、次の中心チャネルを探すというサイクルを回し続けることを推奨する。
- 顧客理解の重要性: どのチャネルが有効かを検討する前提として、自社の顧客が誰で、どのようなジョブ(課題)を解決しようとしているのかを明確にすることが不可欠だとする。
- 継続的な検証と移行: 一度有効だったチャネルも、市場や製品のライフサイクルの変化とともに効果が薄れることがあるため、常に複数のチャネルをテストし、コホート分析やABテストを通じて効果を検証し続ける姿勢が必要だとする。特定のチャネルへの依存が過度に高まることのリスクにも言及し、複数のチャネルを並行して育てておくことの重要性を説く。
- テスト予算の目安と成長の数式: 新規チャネルの検証にはマーケティング予算・エンジニアリングリソースの一定割合(目安として全体の5~25%程度)を継続的に振り向けるべきだとし、いきなり全リソースを一つのチャネルに投じることのリスクを避けるべきだと説く。また、獲得ユーザー数は「トラフィック量×コンバージョン率」という単純な数式に分解できるとし、チャネルの評価にあたってはコンバージョン率だけでなく、そのチャネルがもたらすトラフィックの絶対量や顧客獲得コスト(CAC)、顧客生涯価値(LTV)との比較も含めて総合的に判断すべきだとする。
- ターゲットチャネルの絞り込み基準: 有望なチャネルかどうかを判断する基準として、「コスト」(獲得あたりのコストが見合うか)、「対象性」(自社の顧客層に実際に接触できるか)、「独自性」(競合がまだ本格的に手を付けていないか)という3つの軸を用いることを提案し、これらを組み合わせて次に集中投資すべき中心チャネルを選定する手順を示す。
具体例
検索エンジン広告(SEM)から始めて一定の顧客基盤を築いたのち、口コミによるバイラル的な拡散やコンテンツマーケティングへと軸足を移していくというように、成長段階に応じて主軸となるチャネルを切り替えていくスタートアップの一般的なパターンが、Bullseyeフレームワークの運用例として紹介されている。著者自身が創業したDuckDuckGoが、大手検索エンジンとの差別化ポイントである「プライバシー保護」を軸にコミュニティやブログでの露出を通じて初期ユーザーを獲得していった経緯も、実例として言及されている。
実践への応用
新規事業やスタートアップの顧客獲得施策を検討する際に、思いつきで一つのチャネルに絞り込むのではなく19のチャネル全体から候補を洗い出すこと、複数の候補を低コストで並行してテストしたうえで手応えのあったものにリソースを集中させること、効果を検証する仕組み(コホート分析やABテスト)をあらかじめ用意しておくことなどが、実務への応用として挙げられる。また、開発リソースの半分を意識的に顧客獲得活動へ振り向けるという「50%ルール」の考え方を自社のリソース配分の点検基準として使うこと、一つのチャネルが機能しなくなった際にすぐ次の候補へ移行できるよう常に複数チャネルの仮説をストックしておくことも実践的な応用として挙げられる。
位置づけ・評価
「プロダクトを作れば売れる」という思い込みに対して、顧客獲得の方法論そのものを体系立てて示した著作として、シリコンバレーのスタートアップ界隈で広く参照される実践書として位置づけられている。マーケティング施策を業種横断的にカタログ化して比較検討できるようにした点で、単一のチャネル(SEOやSNS運用など)に特化した専門書とは異なる、意思決定のためのフレームワーク本としての性格が強い。同時期に類似の問題意識から書かれたライアン・ホリデイの『グロースハッカー・マーケティング』などとも並んで、プロダクト志向に偏りがちなスタートアップ経営者に「配荷(ディストリビューション)」の視点を突きつけた著作として、スタートアップ経営論の中に定着している。