3行でいうと
- 単発の裏技ではなく、仮説を高速に検証し続ける仕組みが持続的な成長を生む
- 本格的な成長施策の前に、製品が市場に受け入れられているかを確かめる
- 成長全体を表す一つの指標(ノーススター・メトリック)を定め、組織で共有する
- 職能横断の小さな専任チームが、獲得・活性化・維持などの課題に集中する
向いている人
Webサービスやアプリの成長を担当する人、スタートアップの事業責任者やマーケター。実務の手順を知りたい人向けです。
読む意味
施策を思いつきで打つのではなく、指標を決めて仮説と検証を回す進め方を学べます。AIを活用したサービスの改善でも、実験の回し方や優先順位づけの考え方は参考になります。
読むときの注意
グロースハックの手法の一部は、解約手続きを難しくするなどの「ダークパターン」として批判されています。ユーザー体験を犠牲にした短期的な数字の操作は持続しないという見方もあります。
どんな本か
著者のショーン・エリスは、「グロースハック」という言葉を生んだ人物で、Dropboxの初期にグロース施策を主導した実務家です。共著者のモーガン・ブラウンも複数のスタートアップでグロースの責任者を務めました。本書は2017年に出た、急成長企業の裏側にある共通の方法論を体系化した本で、理論書というより、現場で使ってきたプロセスと事例をまとめた実務マニュアルの性格が強いものです。勘や思いつきの単発施策ではなく、データにもとづく仮説を高速に検証し続ける組織的な仕組みこそが成長を生む、という立場を取ります。
構成は、グロースハックの基本思想から始まり、成長を測る指標の設計、高速な実験サイクルを回す組織づくり、そして顧客のライフサイクル(獲得・活性化・維持・収益化・紹介)ごとの具体的な施策へと進みます。主な論点は、本格投資の前に製品が市場に受け入れられているかを確かめること、ノーススター・メトリックの設定、アイデアを影響度・確信度・実行のしやすさの3基準で点数化して優先順位をつける方法、失敗のほうが多い前提でテストの本数を増やすことなどです。登録直後に製品の核心的な価値に早くたどり着けるよう導線を設計し直すこと、紹介する側とされる側の双方に価値を与える仕組みなども扱います。
Dropboxの紹介プログラムやHotmailのメール末尾の一文、Airbnbなどの事例が紹介されます。なお、グロースハックの手法の一部は、解約を難しくするなど「ダークパターン」と批判されており、短期的な数字の操作は持続しないという見方もあります。
中身の柱
- グロースハックの基本思想と、成長を測る指標(ノーススター・メトリック)
- 本格的な成長施策の前に、製品が市場に受け入れられているかを確かめる
- 高速実験サイクルと、ICEスコアによる優先順位づけ
- 職能横断のグロースチームと、週次のミーティングの運営
- 獲得・活性化・維持・収益化・紹介(AARRR)ごとの施策
- 紹介(バイラリティ)の設計と、オンボーディングの最適化
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概要
「グロースハック」という言葉の生みの親である著者が、Facebook・Airbnb・Dropboxなど急成長企業の裏側にある共通の方法論を体系化した一冊。勘や思いつきに頼った単発の施策ではなく、データに基づいた仮説を高速に検証し続ける組織的な仕組みこそが持続的な成長を生むと説く。著者ショーン・エリスは、1994年にカリフォルニア大学デイビス校を卒業後、Uproar社およびLogMeIn社でそれぞれ立ち上げからIPOまでマーケティング責任者を務め、その後Dropboxの初期にグロース施策を主導した人物であり、「グロースハッカー」という肩書きを2010年に自身のブログで初めて提唱し、後にコミュニティサイト「GrowthHackers」を創設したことでも知られる。共著者モーガン・ブラウンも複数のスタートアップでグロース責任者を務めた実務家であり、本書は理論書というよりも、両者が実際の現場で用いてきたプロセスと事例を体系立ててまとめた実務マニュアルとしての性格が強い。
本の構成
グロースハックの基本思想の説明から始まり、成長を測る指標の設計、高速な実験サイクルを回すための組織づくり、そして獲得・活性化・維持という顧客のライフサイクル各段階への具体的な施策へと展開する構成になっている。前半でプロダクト・マーケット・フィットの検証方法とグロースチームの立ち上げ方を扱い、後半では獲得(Acquisition)・活性化(Activation)・維持(Retention)・収益化(Revenue)・紹介(Referral)というAARRRフレームワークの各段階に対応する章立てで、具体的な戦術が数多く列挙される構成になっている。
主要な内容
- プロダクト・マーケット・フィットの検証(サム・テスト): 本格的な成長施策に着手する前に、まず製品が市場に受け入れられているかどうかを確認する必要があるとし、ユーザーに「この製品が使えなくなったらどれくらいがっかりするか」を尋ね、「非常にがっかりする」という回答が40%を超えるかどうかを一つの目安とする調査手法(著者にちなみ「サム・テスト」とも呼ばれる)を紹介する。この基準を満たさないままグロース施策に投資しても、穴の空いたバケツに水を注ぐようなものだとされる。
- ノーススター・メトリック: 企業の成長全体を最もよく表す一つの重要指標(WhatsAppのメッセージ送信数、Airbnbの予約数など)を定め、組織全体がその指標の改善に向かって動くことの重要性を説く。この指標は企業の成長段階に応じて見直されるべきだとする。
- 獲得・活性化・維持(AARRRフレームワーク): 顧客のライフサイクルを、新規顧客を獲得する段階、製品の価値を実感してもらう活性化の段階、継続利用してもらう維持の段階に分け、それぞれの段階に特化したチームや施策を組織することを提唱する。
- 高速実験サイクルとICEスコア: 効果が見込める施策のアイデアを、インパクト(Impact)・確信度(Confidence)・実行のしやすさ(Ease)という3つの基準でスコアリングし、優先順位をつけて次々と検証していく高速な実験サイクルを回すことの重要性を説く。実験のプロセスは、データ分析からアイデアを出す「分析」、優先順位づけを行う「アイデア出しと優先順位付け」、実際にテストを走らせる「テスト」、その結果を次の分析に反映させる、という循環するサイクルとして描かれ、成功よりも失敗の方が多いことを前提に、テストの本数そのものを増やすことが成長速度を左右するとされる。
- プロダクト・マーケット・フィットの言語化: 製品の価値を、ユーザーが一瞬で理解できる簡潔な言葉に落とし込むことの重要性を、「ポケットに1000曲」というAppleのiPod訴求を例に説明する。
- 専任のグロースチーム: 特定の指標(例えばメールやプッシュ通知経由の再訪率)にのみ集中して取り組む小規模な専任チームを組織することで、分散した努力よりも高い成果を上げられるとする。グロースチームは、エンジニア・データアナリスト・マーケター・プロダクトマネージャーなど職能を横断したメンバーで構成され、週次のグロースミーティングで実験結果を共有し次の施策を決めるというリズムで運営されるべきだとする。
- バイラリティ(紹介)の設計: 既存ユーザーが新しいユーザーを連れてくる仕組みを製品体験そのものに組み込むことの重要性を説き、招待した側・された側の双方に価値を与える「ダブルサイド・インセンティブ」の設計が、単なる紹介キャンペーンより高い効果を生むとする。
- 活性化とオンボーディングの最適化: ユーザーが登録直後に製品の核心的な価値(アハ・モーメント)にできるだけ早くたどり着けるよう、初回体験の導線を細かく設計し直すことの重要性を説く。
具体例
Dropboxが紹介した友人・自分自身の双方に追加の無料ストレージ容量を提供する紹介プログラムによって登録者数を大幅に増やした事例、Hotmailが送信メールの末尾に「PS: I love you. Get your free e-mail at Hotmail」という一文を自動的に挿入したことで、追加の広告費をかけずに18か月で1200万人のユーザーを獲得したとされる事例、Airbnbが物件の写真をCraigslistに簡単に同時掲載できる仕組みを作り、Craigslistの既存トラフィックを取り込んで初期の成長を加速させた事例、Facebookが新規ユーザーが登録後10日以内に7人以上の友達とつながると継続利用率が大きく高まるという分析結果を突き止め、その導線の最適化に注力した事例、Pinterestがメールやプッシュ通知の最適化だけに専任チームを集中させて成果を上げた事例など、実在の急成長企業の具体的な取り組みが随所で紹介されている。
実践への応用
自社の成長を最もよく表す一つの指標(ノーススター・メトリック)を定義すること、サム・テストなどの手法でプロダクト・マーケット・フィットを検証してからグロース施策に本格投資すること、顧客ライフサイクルを獲得・活性化・維持に分けてそれぞれの課題を特定すること、施策のアイデアをICEスコアで優先順位付けして高速に検証すること、特定の課題に集中する小規模な職能横断チームを組織すること、新規ユーザーが製品の核心的価値に触れるまでの導線(オンボーディング)を細かく計測し改善すること、紹介した側・された側の両方に価値のあるインセンティブを設計することなどが、実務への応用として挙げられる。
位置づけ・評価
「グロースハック」という手法をシリコンバレーの実例とともに体系化した著作として、スタートアップやデジタルマーケティングの実務者に広く読まれている代表的な一冊として位置づけられている。単発のバイラル施策やちょっとした裏技を指す言葉として誤解されがちな「グロースハック」を、データドリブンな実験プロセスと組織づくりの体系として再定義した点に本書の意義があるとされ、後続のプロダクト主導型成長(プロダクト・レッド・グロース)論やリーン・スタートアップ論とも問題意識を共有する一冊として位置づけられている。 書誌情報として、日本語版は『Hacking Growth グロースハック完全読本 企業の「成長エンジン」を見つけ、火をつけ、持続させる』の題で、門脇弘典の翻訳により日経BP社から2018年に刊行されている(国立国会図書館サーチの記録では370ページ、価格2000円)。原著は2017年にCrown Businessから出版された(ISBN 978-0451497215)。用語の来歴についてウィキペディアは、エリスが2010年6月26日付のブログ記事「Find a Growth Hacker for Your Startup」で、グロースハッカーを「羅針盤の指す方向(True North)が成長である人物」と定義し、その行動はすべて「スケーラブルな成長への潜在的インパクト」によって精査されると述べたと記している。この言葉をより広い読者に紹介したのは、2012年にアンドリュー・チェンが書いたブログ記事「Growth Hacker is the new VP Marketing」であり、同記事はAirbnbとCraigslistの連携を例に、グロースハッカーを「マーケターとコーダーのハイブリッド」と位置づけた。さらにウィキペディアは、グロースハックを従来のマーケティングがブランド認知や製品完成後のプロモーションに重点を置いていたのに対し、顧客ライフサイクルの全段階でデータに基づく意思決定と高速な実験を繰り返す手法として説明しており、本書が示す枠組みとも重なる。