3行でいうと
- 優秀な人材の密度を高めることが、規則を減らす前提になる
- 上司から部下へも、部下から上司へも、直接的なフィードバックを行う文化をつくる
- 休暇や経費の細かな規定をなくし、自由と責任を組み合わせて運営する
- この順序を誤ると、自由は単なる放任に陥ると繰り返し強調する
向いている人
組織の文化や人事制度の設計に関わる経営者・人事担当者に向きます。チームの自由度と責任の関係を考えたい管理職にも読めます。
読む意味
規則を減らすなら何を先に整えるべきかを、順序とともに示しています。同じ率直さを扱うほかの経営書と並べて、考え方の違いを比べる材料にもなります。
読むときの注意
書評は、この手法は高収益・高成長でスター人材を厚遇できる企業だからこそ機能する面があり、あらゆる業種や規模にそのまま当てはまるわけではないとします。キーパーテストに基づく解雇文化には、心理的安全性や燃え尽きの観点からの批判もあります。
どんな本か
Netflixの共同創業者で元CEOのリード・ヘイスティングスと、異文化経営を専門とするINSEAD教授のエリン・メイヤーが、2020年に出した経営書です。旅費や休暇日数、承認の手続きといった従来型の統制を取りのぞき、そのかわりに「人材の密度を高める」「率直さを高める」「コントロールを減らす」の3本柱で、変化の速い業界でも革新を続けられる組織をつくってきたNetflixのやり方を、ヘイスティングス自身の語りと、メイヤーによる200人以上へのインタビューで解説します。
第一の柱では、平均的な社員には十分な退職金を払ってでも去ってもらい、報酬を市場の最高水準にして少数精鋭で組織をつくる考えが示されます。有名な「キーパーテスト」は、部下が明日辞めると言ったら全力で引き止めるかどうかを上司が自問する基準です。第二の柱では、実名で行う360度評価や、助けるための意図で行うなどの「4A」というフィードバックの指針が紹介されます。第三の柱では、無制限の休暇制度や、経費規定を「Netflixの利益のために行動せよ」の一行だけにした例が語られます。
事例は社内の実名つきの話が多く、DVD郵送からストリーミングへの大転換や、日本法人の立ち上げで率直さが上下関係を重んじる文化と衝突した話も含まれます。各章はヘイスティングスの一人称の語りと、メイヤーの補足が交互に並ぶ構成です。
中身の柱
- 第一の柱:人材の密度を高める(トップ・オブ・マーケットの報酬、キーパーテスト)
- 第二の柱:率直さを高める(4Aの指針、実名の360度評価)
- 第三の柱:コントロールを減らす(無制限の休暇、経費規定の撤廃)
- 3つの柱を、浅い実践から深い実践へと3周して掘り下げる
- 海外拠点に文化を移すときの摩擦と適応
あわせて読む本
- GREAT BOSS別企業で生まれた、率直さを核にする考え方
- ピクサー流 創造するちから率直な意見交換を仕組みにした事例
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概要
『NO RULES』は、Netflix共同創業者・元CEOのリード・ヘイスティングスと、INSEAD教授で異文化経営研究の専門家エリン・メイヤーが2020年に共著した経営書である。原題は『No Rules Rules: Netflix and the Culture of Reinvention』。本書は、経費規定や休暇日数、承認プロセスといった従来型企業の「統制(コントロール)」を撤廃し、代わりに「有能な人材の密度を高める」「率直なフィードバック文化を築く」「コントロールを減らす」という3つの柱によって、変化の速いエンターテインメント業界で継続的にイノベーションを起こす組織文化を築いてきたNetflixの経営手法を、ヘイスティングス自身の一人称の語りと、メイヤーが実施した現従業員・元従業員200人以上へのインタビューを組み合わせて解説したものである。ニューヨーク・タイムズ・ベストセラーとなり、NPRやエコノミー誌の年間ベストブックにも選出され、フィナンシャル・タイムズ&マッキンゼー・ビジネスブック・オブ・ザ・イヤー賞の最終候補にもなった。
本の構成
本書は「人材密度を高める」「率直さを高める」「コントロールを減らす」という3段階のフレームワークに沿って、各段階をさらに浅い実践から深い実践へと3周(サイクル)にわたって掘り下げる構成をとっている。各章は、ヘイスティングスが自身の経営判断の失敗や気づきを語る一人称パートと、メイヤーが異文化経営学者の視点から国際的な事例や学術的知見を補足するパートが交互に配置される。終盤では、この文化モデルを海外拠点(特に文化的にトップダウン志向が強い日本やブラジルなどの拠点)に導入する際の摩擦と適応についても一章を割いている。
主要な内容(詳述)
第一の柱「人材密度を高める(Talent Density)」では、Netflixが平均的な社員を解雇してでも「スター人材」だけで組織を構成するという方針を採用してきた経緯が語られる。ヘイスティングスは、優秀なエンジニア一人の生産性は平均的なエンジニアの数倍から数十倍に達するという知見(ソフトウェア開発における生産性のべき乗分布)を踏まえ、市場最高水準の報酬を少数精鋭に支払う「トップ・オブ・マーケット」給与方針を打ち出した。あわせて有名な「キーパーテスト」が紹介される。これはマネジャーが各部下について「もしこの人が明日辞めると言ったら、引き止めるために全力を尽くすか、それとも実はほっとするか」を自問し、後者に該当する社員には(業績が「十分」であっても)相応の退職金を払って気持ちよく退職してもらうという基準である。
第二の柱「率直さを高める(Candor)」では、上司から部下だけでなく部下から上司へも、さらに同僚同士でも直接的な批判的フィードバックを行う文化が解説される。具体的な手法として「4A」フィードバックガイドライン(Aim to Assist=相手を助ける意図で行う、Actionable=行動可能な内容にする、Appreciate=感謝して受け止める、Accept or Discard=採用するか捨てるかは受け手が決める)が提示され、また全社員参加の360度評価(実名で行われ、匿名ではない点がNetflixの特徴)や、経営会議での率直な意見交換の実例が紹介される。ヘイスティングス自身が全社員の前で自らの経営判断の失敗を認め、フィードバックを求める場面も描かれる。
第三の柱「コントロールを減らす(Control)」では、旅費規定・休暇日数・経費承認・稟議プロセスといった伝統的な統制の仕組みを段階的に撤廃していった過程が語られる。象徴的な事例が「無制限休暇制度(Unlimited Vacation Policy)」であり、休暇取得日数を一切管理しないかわりに、経営陣が自らロールモデルとなって休暇を取ることで文化として機能させた経緯が説明される。同様に経費規定についても「Netflixの利益のために行動せよ(Act in Netflix's Best Interests)」という一行の指針だけを残し、詳細な承認フローを廃止した。これらの「自由」は、前提となる高い人材密度と率直なフィードバック文化がなければ機能しないという因果関係(自由と責任のトレードオフ、いわゆる「Freedom and Responsibility」文化)が繰り返し強調される。
具体例
本書には、映像制作部門で発生した不正会計を巡る対応事例、コンテンツ部門の幹部が高額な経費を個人的目的で使用しレイオフされた事例、DVD郵送レンタル事業からストリーミング事業への大転換期における組織再編、パトリック・ウィルソンら制作幹部のマネジメント方針など、多数の社内事例が実名・実職位付きで紹介される。海外展開の章では、日本法人立ち上げ時に率直なフィードバック文化が上下関係を重んじる日本の企業文化と衝突した事例、オランダやシンガポールなど各国オフィスでの文化適応の試行錯誤も扱われる。また比較対象として、多くの伝統的企業が採用する詳細な就業規則・経費規定型のマネジメント(ヘイスティングス自身が創業した前職Pure Softwareでの息苦しい管理経験)との対比が繰り返し用いられ、そこからNetflix文化が生まれた経緯が説明される。
実践への応用
本書のフレームワークは、急成長企業や創造性が競争優位の源泉となる業界の経営者・人事責任者にとって、組織設計の点検リストとして機能する。具体的には、(1)人事評価において「キーパーテスト」を用いて自チームの人材密度を定期的に点検する、(2)フィードバックを行う際に4Aガイドラインをテンプレートとして使い、感情的な批判ではなく行動可能な提言に変換する、(3)経費・休暇などの管理規定を撤廃する前に、まず人材密度とフィードバック文化の醸成を先行させる(順序を誤ると単なる放任主義に陥る)、(4)海外拠点や文化的背景の異なるチームに同じ文化を移植する際は、現地の文化的文脈(权力格差指標などメイヤーの他著書『The Culture Map』の枠組み)を踏まえて調整する、といった適用が可能である。ただし本書自体も、この手法は高収益・高成長企業でスター人材を厚遇できる財務的余裕があってこそ機能する側面があり、あらゆる業種・規模の企業にそのまま適用できるわけではない点に注意が必要である。
位置づけ・評価
本書は2010年代後半以降に急速に注目された「規則によらない自律的組織文化」論の代表的著作の一つであり、ネットフリックスが2001年の人員削減時に偶然発見したとされる「タレント・デンシティ」の効用を体系化したことで知られる。同社が2009年に社内向けに公開したスライド資料『Netflix Culture Deck』(後にシェリル・サンドバーグが「シリコンバレーから出た最も重要な文書」と評したことで有名になった)の内容を、10年以上の実践を経て一冊の書籍として結実させたものと位置づけられる。経営学的には、マイクロマネジメントの弊害とハイパフォーマー中心組織の設計という論点で、パティ・マッコードの前著『POWERFUL: Building a Culture of Freedom and Responsibility』とあわせて参照されることが多い。一方で、キーパーテストに基づく解雇文化については従業員の心理的安全性や燃え尽きのリスクを指摘する批判的な論評も存在し、本書自体もその功罪を完全に無批判に描いているわけではなく、ヘイスティングス自身が過去の失敗(強すぎる率直さがハラスメントまがいの状況を生んだ事例など)を率直に記述している点が特徴である。