3行でいうと
- モデルカードは、2018年の論文が「モデルに添える短い文書」として提案したのが原点です。いまの各社の文書は、長さも構成もばらばらです。Googleは評価の詳細を別のPDFに分け、AnthropicのOpus 5のシステムカードは目次で約197ページあります。
- 知りたいことで、見る章が決まります。学習データ、悪用への強さ、正直さ、重大リスク、性能は、それぞれ別の章に書かれています。
- 数字より先に、「方法」の段落を読みます。誰が測ったか、何回試したか、比べた相手と条件がそろっているか。各社のカード自身が、注意書きとして書いています。
この記事は、公式の文書を2026年10月16日に読んでまとめたもので、実際に使って確かめた記録ではありません。取得できたのは各文書の抽出で、長い文書は一部しか読めていません。読めなかった範囲は「気をつけること」に書きました。
先に結論
- 文書の名前は、型を表さない。 「モデルカード」「システムカード」のどちらも、公式の決まった書式があるわけではありません。会社ごとに構成が違います。
- まず要約と変更履歴、次に方法、最後に自分の用途の章。 この順に読むのが、僕らの見立てです。
- カードは、会社が自分で書いた報告。 外部の評価も入りますが、大半は社内の評価です。会社間の比較には、そのままは使えません。
- 読めなかった部分がある。 OpenAIとAnthropicの長いカードは、途中までしか取得できていません。
原点:モデルカードとは
Margaret Mitchellらの論文「Model Cards for Model Reporting」(2018年10月提出、2019年1月の改訂版)は、モデルカードを「訓練済みのモデルに添える短い文書」と呼びました。載せるものとして、概要には次の3つが挙がっています。いろいろな条件での評価結果(特定の集団ごとの違いを含む)、想定する使い方、評価のやり方の詳細です。
この3つは、いまの各社の文書にも、形を変えて残っています。
3つの文書を並べる
2026年10月16日に読んだ文書です。名前と日付は、文書に書かれたとおりです。
| 文書 | 日付 | 長さ・形 | 章の並び | |
|---|---|---|---|---|
| Gemini 3 Pro Model Card | 2025年11月公開、2026年5月に更新 | 本体は8つの章。評価の詳細は別のPDF | モデルの情報、データ、実装、提供方法、評価、使い方と限界、倫理と内容の安全、重大リスクの安全 | |
| Anthropic | Claude Opus 5 System Card | 2026年7月24日、変更履歴は8月19日 | 目次で約197ページ | 要約、導入、責任あるスケーリング方針の評価、サイバー、安全対策、エージェントの安全、アラインメント、モデルの福祉、性能、付録 |
| OpenAI | GPT-6 Astra System Card | 2026年9月3日、変更履歴は9月29日まで | 長い。Webページ形式(約11万字) | 変更履歴、安全の概要、データと訓練、社内での展開、モデルの安全、頑健性、健康、ハルシネーション、アラインメント、監視可能性、準備態勢、安全対策 |
OpenAIは、システムカードを「Deployment Safety Hub」にまとめています。読んだ時点の一覧には、2026年10月15日のGPT-Live-1.1のカードから、7月8日の文書まで、複数の文書がありました。追補や更新の形の文書もあります。Anthropicは、新モデルの発表ページから、システムカードにリンクしています。
知りたいことで、見る章が決まる
3社の目次を並べた対応です。章の名前は、各社の文書の呼び方から言い換えています。
| 知りたいこと | Anthropic | OpenAI | |
|---|---|---|---|
| 何で学習したか | モデルのデータ | 導入(訓練の記述があるかは未確認) | データと訓練 |
| 悪用や危ない頼みへの強さ | 倫理と内容の安全 | 安全対策、エージェントの安全 | モデルの安全、頑健性 |
| 間違いや嘘 | 使い方と限界(既知の限界として、ハルシネーション) | アラインメントの章の中の「Honesty and hallucinations」の節 | ハルシネーション |
| 重大なリスク(化学・生物・サイバーなど) | 重大リスクの安全 | 責任あるスケーリング方針の評価、サイバー | 準備態勢(目次のみ確認) |
| 性能 | 評価、別のPDF | 性能 | 目次に「Capabilities Assessment」などの章名があるが、本文は読めていない |
| AI自身の振る舞い | 書かれていない(読んだ範囲) | アラインメント | アラインメント、監視可能性 |
表の「見当たらない」は、読めた範囲での話です。OpenAIのカードは、本文で読めた範囲では安全の評価が中心でした。目次には性能の評価らしい章名(Capabilities Assessmentなど)もありますが、その本文は読めていません。
数字より先に、「方法」を読む
各社のカード自身が、方法と限界を書いています。読むときに見る5点を、そこから整理しました。
1. 誰が測ったか。 Anthropicは、評価の大半を社内で行い、外部の機関は特定の章で名前が挙がると書いています。OpenAIも、社内の評価の限界を書いていて、外部の評価者は領域ごとに名前が出ます。社内の評価と第三者の評価は、分けて読みます。
2. 何回試したか。 Anthropicのカードは、生物の課題でモデルごとに8回の試行、脆弱性ごとに5回、Firefox 147の攻撃(エクスプロイト開発)課題で、合計250回、など、試行数を具体的に書いています。OpenAIは、一部の試験で標本が小さいことを、限界として書いています。
3. 同じ条件で比べているか。 Googleの評価方法のPDFは、自社モデルの結果は、1回の試行(pass@1)で、多数決はしていない、と書いています。他社のモデルの数字は、大半が各社の自己申告で、一部は第三者の順位表から、一部はGoogleがAPIで測ったものです。さらに、SWE-bench Verifiedは、提供者ごとに実行環境が違う、などの注記があります。OpenAIのカードは、別の版や古いカードの数字は、そのまま比べられないことがある、と書いています。
4. テストされていると気づく問題。 Anthropicのカードは、評価への気づきが結果に影響した可能性に触れ、OpenAIのカードも、モデルが評価されていることを認識することがある、と限界に挙げています。
5. 後から直された点。 Anthropicのカードの変更履歴には、あとから結果が足されたものや、実行環境の食い違いが見つかって修正されたものがあります。また、飽和した(点が取りやすくなった)ベンチマークは落とした、とも書かれています。OpenAIのカードにも変更履歴の章があり、9月29日までの更新が書かれています。
カード自身が書いている限界(抽出から)
OpenAI(GPT-6 Astra):社内の評価は、あえて難しく作ってあり、平常の利用の代表ではない。安全の試験は、システム側の安全対策を外した状態で行い、モデル本体の振る舞いを測っている。「失敗が見つかっていない」ことは、すべての制限を守ると証明するものではない。評価への気づきと、社内展開と外部展開のずれが、限界として挙がっている。前のモデルより悪い領域も書かれている。
Anthropic(Claude Opus 5):実世界の設定に結果が当てはまるかは不確か、自動評価が一部のリスクを見落とす可能性、評価への気づきが結果に影響した可能性、などを書いている。外部では、英国のAI Security Institute(UK AISI)などが、特定の章で名前を挙げられている。
Google(Gemini 3 Pro):評価の方法の詳細は、カード本体ではなく別のPDFにある。モデルの限界として、ハルシネーションと、知識の期限が書かれている。
読む順番(見立てです)
ここからは、僕らの見立てです。公式の推奨ではありません。
- まず、要約の章と変更履歴。 何が変わったカードか、どの結果が後から直されたかが分かります。
- 次に、方法の段落。 上の5点です。数字が出てきた章の、前後の文章を読みます。
- 自分の用途の章。 文章を作る使い方なら、ハルシネーションと正直さ。仕事の自動化なら、エージェントの安全と、プロンプトインジェクション(外から仕込まれた命令)への強さ。
- 最後に、限界の章。 書かれていないことを探します。
- 会社を比べるときは、同じ条件の数字だけ。 カードは各社が自分の評価で書いたものです。
気をつけること
- この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません。2026年10月16日に、公式の文書を読んだ内容です。
- 取得できたのは抽出で、長い文書は途中までです。Anthropicのシステムカードは、4章の途中までの本文と目次を、OpenAIのGPT-6 Astraのカードは、9章の途中までの本文と目次を読みました。OpenAIの準備態勢と安全対策の章、両カードの付録は、本文を読めていません。
- 「見当たらない」「書かれていない」は、抽出に見当たらなかったという意味です。
- Googleのカードは、読んだGemini 3 Proのものです。より新しいモデルのカードが出ている可能性があります。
- 試行回数などの数字は、カードの書き方を示す例として挙げたもので、モデルの優劣を示すものではありません。
- 重大リスクの評価(しきい値の定義など)は、この記事では扱っていません。各社の枠組みの文書は、別に確かめる必要があります。
出典
- Model Cards for Model Reporting(Mitchellら、arXiv、2019年1月版、10月16日確認)
- Gemini 3 Pro Model Card(Google DeepMind、2025年11月公開、10月16日確認)
- Model Evaluation – Approach, Methodology & Results(Google DeepMind、2025年11月、10月16日確認)
- Introducing Claude Opus 5(Anthropic、2026年7月24日、10月16日確認)
- Claude Opus 5 System Card(Anthropic、2026年7月24日、10月16日確認)
- OpenAI Deployment Safety Hub: System cards(OpenAI、10月16日確認)
- GPT-6 Astra System Card(OpenAI、2026年9月3日、10月16日確認)
更新履歴
- 2026年10月25日 書き方を直しました。
- 前:運営者が使っていないと読める書き方 → いま:「この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません」。公式の資料を読んでまとめた記事で、使い心地は書いていない、という意味に直した
