3行でいうと
- 報道によると、OpenAIの年間換算売上は「500億ドルに近い」で、9月末ごろから出回っていた「700億ドルに近い」とは約200億ドルの差があります。
- 差の主因は、Anthropicの数え方に合わせて直接比較しようとした試みだと報じられています。Anthropicはクラウド提携先(AWSやGoogle Cloud)経由の売上を含め、OpenAIは含めません。
- 「年間換算売上(ARR)」は会計基準で決まった数字ではありません。何を足し、何を引くかは、会社ごとの決めです。比べるときは、数え方をそろえたかを先に確かめます。
この記事では、OpenAIやAnthropicの内部の数字を見ていません。この記事は、2026年10月12日までに公開された報道と、公式の会計・開示の文書を読んでまとめたものです。投資や取引をすすめる記事ではありません。
先に結論
- 数字が2つ出た理由は、需要の変化ではなく、数え方の説明です。 Reutersは、関係者の話として、差は「主に、競合のAnthropicの数字と直接比べようとしたこと」から生じたと伝えています。
- 「総額」と「純額」は、会計のことばです。 自分が売り手(本人)なら顧客の支払いの全額を売上に、仲介役(代理人)なら手数料だけを売上にします。クラウド提携先を通した売上を、どちらで数えるかで、大きさが変わります。
- どちらも不正とは言われていません。 Axiosは、両社とも会計基準(GAAP)には沿っており、違いは「顧客との関係を握り、製品を届けるのは誰か」という役割の見方だと伝えています。
- ARRは、作った人の定義でできています。 直近の月の売上を12倍する、といった簡単な計算が多く、会計基準には定義がありません。
- この数字の出どころは、会社の決算書ではありません。 両社とも非上場で、報道は関係者の話や投資家向け資料に基づいています。OpenAIは、Reutersの取材に答えていません。
前提:用語をそろえる
- 年間換算売上(ARR):ここでは、直近の売上の勢いを1年分に引き伸ばした数字のことです。正式な売上高(決算書の数字)とは別です。呼び方は「annualized revenue」「run rate」などさまざまです。
- 総額(グロス)と純額(ネット):顧客が払った全額を売上にするのが総額、自社の取り分だけを売上にするのが純額です。
- 本人と代理人:会計では、商品やサービスを顧客に渡す前に「支配しているか」で分けます。支配していれば本人(総額)、手配するだけなら代理人(純額)です。
- クラウド提携先:ここでは、AWSやGoogle Cloudのように、他社のAIを自社のクラウドから販売する事業者を指します。顧客はクラウドの請求書で支払い、AI会社には提携先から代金が入ります。
- GAAP:米国で使われる会計基準の総称です。
何が報じられたか(時系列)
次は報道の整理です。各社の記事を僕らが読んだ範囲で、数字は報道の記載です。
| 日付 | 出来事 | 出どころ |
|---|---|---|
| 2026年7月 | Anthropicの年間換算売上が650億ドルを超えた | CNBC(8月17日付)。ReutersとTechCrunchも引用 |
| 9月29日 | OpenAIの年間換算売上が「700億ドルに近づく」と報道 | Axios(TechCrunch経由) |
| 10月8日 | OpenAIが投資家に伝えた年間換算売上は「500億ドルに近い」と報道 | Financial Times(TechCrunchとReuters経由) |
| 10月8日 | NVIDIA、Oracle、CoreWeaveなどAI関連株が下げた | CNBCの見出し。個々の下げ幅は、僕らが一次の記事で確認できていません |
- Reutersは、500億ドルを「9月の年間換算売上」とし、関係者の話として、「700億ドルとの差は、主にAnthropicとの直接比較を作ろうとしたことから生じた」とあります。OpenAIはコメントの求めに応じなかったと書かれています。
- Axiosは、700億ドルが「OpenAIの数字をAnthropicの方法で“かさ上げ”する」試みに由来する、と伝えています。この記事には、OpenAIとAnthropicの公式な説明は含まれていません。
- TechCrunchは「Anthropicはクラウド提携先を通した売上も数え、OpenAIは数えない」と書いています。「総額・純額」という言い方は、Axiosの記事が使っています。
総額と純額で、数字はどう変わるか
次は、僕らの計算例です(実際の契約の数字ではなく、仕組みを見るための仮の数字です)。
顧客がクラウド経由で、ある月にAIの利用料を100万ドル払うとします。クラウド提携先が20万ドルを取り、AI会社には80万ドルが入ります。
| 数え方 | 月の売上 | 12倍した年間換算 |
|---|---|---|
| 総額(顧客の支払い全額を売上、提携先の取り分は費用) | 100万ドル | 1,200万ドル |
| 純額(自社に入る取り分だけを売上) | 80万ドル | 960万ドル |
同じ取引でも、年間換算は20%違います。Axiosは、会計学者の説明として、「顧客が100ドルをクラウド経由で払うと、Anthropicは100ドル全額を売上にして、提携先の取り分は費用にしうる」と伝えています。
Reutersの分析では、Anthropicは提携先を通した売上1ドルのうち約16%を提携先に払っています。ただし、OpenAIの500億ドルと700億ドルの差は約29%(200億÷700億)あり、16%より大きいので、差の全部が提携先の取り分だけで説明できるとは限らない、というのが僕らの見立てです。どこまでが何の違いかは、公開された文書からは分かりません。
「本人か代理人か」を決める会計の考え方
国際会計基準(IFRS)の第15号は、顧客に渡す商品やサービスごとに、自社が本人か代理人かを判断すると書いています。見るのは、顧客に渡す前にその商品・サービスを支配しているかです。
- 本人と判断されると、顧客の支払いの全額を売上にして、関連する費用も別に計上します(総額)。
- 代理人と判断されると、手数料や取り分だけを売上にします(純額)。
- 判断の手がかりとして、①顧客への履行の主たる責任を負っているか、②在庫リスクを負っているか、③価格を決める裁量があるか、が挙げられています。
日本の会計基準にも、同じ考え方があります。企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」と、企業会計基準適用指針第30号(47項に3つの指標)です。
僕らは、米国基準の該当部分は読んでいません。また、OpenAIとAnthropicが個々の契約でどう判断しているかは、公開された文書で確認できていません。この表は「考え方の説明」で、2社の会計処理が正しいかどうかの判断ではありません。
ARRは、そもそも何の数字か
- 会計基準で決まった数字ではありません。 売上高や利益は、会計基準で計算の規則が決まっています。ARRはそうではなく、会社が自分で定義します。
- よくある計算は「直近の月の売上×12」です。 Reutersも、アナリストが「1か月の売上を12倍する年間換算は誤解を招くことがある」と見ていると伝えています。季節で変動する売上や、一時的な大口があると、実態から離れます。
- 上場企業には、指標の説明を求める指針があります。 SECは2020年の指針(Release 33-10751)で、経営陣が使う指標について、①明確な定義と計算方法、②なぜ投資家に有用か、③経営陣がどう使うか、④必要な見積りや前提、を示すことを通常期待する、としています。計算方法を変えたときは、違いと理由、影響の開示を検討することも求めています。
- OpenAIとAnthropicは非上場です。 上の指針は上場企業の開示を対象にしたもので、両社には直接かかりません(僕らの理解です)。報道の数字は、決算書ではなく、関係者の話や投資家向け資料に基づいています。
数字を読むときの確認点
見立てです。僕らがまとめた、報道の数字を読むときのチェックで、公式な基準ではありません。
- どの月の数字を12倍したか。 8月か9月か、1か月分か、四半期の4倍か。
- 総額か純額か。 提携先経由の売上がどちらで入っているか。
- 誰が出した数字か。 会社自身の発表か、関係者の話か、投資家向け資料か。
- 比べる相手と同じ数え方か。 会社どうしを並べるなら、数え方をそろえる必要があります。
- 数え方は途中で変わっていないか。 変わったなら、変更後の数字と前の数字は、そのままは比べられません。
今回は、700億ドルと500億ドルが、同じ会社の同じ時期の数字でも、数え方を変えるだけで並ぶ、という例です。「どちらが本当か」ではなく、「何を足し引きした数字か」を確かめるのが先です。
気をつけること
- この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません。報道と、公式の会計・開示の文書だけを読みました。報道の数字は、後で訂正されることがあります。
- 差の原因(総額・純額の違い)は、複数の報道が伝えていますが、両社の公式な説明は確認できていません。OpenAIは、Reutersの取材に答えていないと報じられています。
- 株価の動きについては、CNBCの記事の見出しだけを確認し、個々の下げ幅は確認していません。この記事は、投資の判断材料を提供するものではありません。
- 会計や開示の判断は、事情によって変わります。実務で使う場合は、会計の専門家に相談してください。
出典
- OpenAI's revenue is reportedly $20 billion less than previously projected(TechCrunch、2026年10月8日、10月12日確認)
- OpenAI annualized revenue $20 billion less than previously reported(Axios、2026年10月8日、10月12日確認)
- OpenAI's September annualized revenue nears US$50 billion, less than previously indicated, source says(Reuters配信、The Standard、10月12日確認)
- Nvidia, Oracle, CoreWeave and other AI stocks sink on OpenAI revenue report(CNBC、2026年10月8日。見出しのみ確認)
- Commission Guidance on Management's Discussion and Analysis… Key Performance Indicators and Metrics(SEC、Release 33-10751)
- Principal vs Agent, or Reporting Revenue Gross vs Net (IFRS 15)(IFRS Community、IFRS 15 B34〜B37の解説、10月12日確認)
- 収益認識会計基準 本人と代理人の区分(TKC、企業会計基準第29号・適用指針第30号、10月12日確認)
更新履歴
- 2026年10月25日 書き方を直しました。
- 前:運営者が使っていないと読める書き方 → いま:「この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません」。公式の資料を読んでまとめた記事で、使い心地は書いていない、という意味に直した
