3行でいうと
- プロンプトインジェクションは、AIが読む文章に紛れた指示で、AIの動きを変えてしまう攻撃です。
- 英国のNCSCは、完全には防げないかもしれないと書いています。AI各社も、対策は危険を減らすもので、なくすものではないとしています。
- AIが他人の書いた文章を読み、送る・消す・買うなどの操作もできるとき、特に注意が必要です。
- 備えの基本は、任せる範囲を絞る、大事な操作は自分で確かめる、ログインや個人情報を渡しすぎない、の3つです。
この記事は、公式・一次資料(国の機関、国際的なセキュリティ団体、AI各社の公式文書)を読んでまとめたものです。この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません。攻撃の具体的なやり方は書きません。書くのは仕組みと備えだけです。
先に結論
公式資料を読んで言えることは、次の4つです。
- プロンプトインジェクションは、AIが読む文章の中に指示を紛れ込ませて、AIの動きを変えてしまう攻撃です。OWASP(ウェブやAIの安全を研究する国際的な団体)は、これを生成AIアプリの危険の1番目に挙げています。
- 英国の国家サイバーセキュリティセンター(NCSC)は、完全には防げないかもしれない、と書いています。AIは「指示」と「ただの資料」を、仕組みの上で区別していないからです。
- AI各社も、安全のための仕組みは危険を減らすものであって、なくすものではない、と書いています。
- だから利用者側の基本は、「AIに任せる範囲を絞る」「大事な操作は自分で確かめる」「ログインや個人情報を渡しすぎない」です。
何が問題なのか
具体的な場面で考えます。
- 受け取ったメールを要約してもらう。その本文の中に、人間には見えない形で、AIへの別の指示が混ざっている。
- ウェブページを読んで調べものをしてもらう。そのページに、AIへの指示が埋め込まれている。
- 予定表や共有された書類をAIに読ませる。そこに、別の人が書いた指示が入っている。
自分で書いた依頼なら、自分で気づけます。困るのは、AIが「他人が書いた文章」を読むときです。AIがメールの送信やファイルの共有、買い物のような「実際に動く力」を持っていると、読んだ文章に引きずられた結果が、現実の被害になります。
公式資料にある例を挙げます。OpenAIのヘルプ(ChatGPT agent)は、ウェブページに悪意のある指示が隠れていて、AIがメールからパスワード再設定のコードを取り出して、悪意のあるサイトに送ってしまう、という例を書いています。Anthropicのブラウザ利用の記事には、白い文字などで人には見えないように隠した指示が入ったメールが、「confidential」を含むメールを外部に転送させようとする例があります。GoogleのGeminiの説明には、メールや書類、予定表の招待に隠された指示が、データを盗もうとする、とあります。
たとえ話:手紙を読み上げる秘書
見立てです。AIを、あなたの代わりに手紙を読んで返事を出す秘書にたとえると、分かりやすいと思います。秘書はとても素直で、手紙に「この書類を、ここへ送ってください」と書いてあると、あなたの指示なのか、差出人の頼みごとなのかを、うまく区別できないことがあります。
NCSCの文書も近い言い方をしています。AIの中身は「これまでの文章に続く、もっともらしい次の言葉」を予測する仕組みで、「指示」と「データ(ただの資料)」のあいだに、もともと壁がない、と説明しています。
2種類ある:直接と間接
| 種類 | 何が起きるか | 確認元 |
|---|---|---|
| 直接 | AIの利用者自身が入力した文章が、AIの動きを意図しない方向に変える | OWASP、IPA |
| 間接 | AIが読み込む外部の文章(ウェブ、メール、書類)の中の指示が、AIの動きを変える。AIを直接使っていない第三者が仕込める | OWASP、IPA |
IPA(情報処理推進機構)の「AI利用者のためのセキュリティ豆知識」は、間接プロンプトインジェクションを「AIシステムの利用者にも警戒が必要な攻撃類型」と説明しています。普通の利用者に関係が深いのは、間接のほうです。OWASPは、人間には見えない形の入力でもAIには影響しうる、とも書いています。
公式資料に書かれていること
NCSC(英国):「減らす」ことを目指す
NCSCのブログ(2025年12月8日公開)は、SQLインジェクション(古くからあるデータベースへの攻撃)は仕組みで根本的に防げるが、プロンプトインジェクションは同じようにはいかないかもしれない、と述べています。そのうえで、次の考え方を示しています。
- AIは「混乱しやすい」ものだと最初から想定して設計する。
- AIが動かせる道具の範囲を、AIとは別の(AIの判断に頼らない)仕組みで縛る。
- 信頼できない相手の文章を読むときは、特別な権限のある道具に触れさせない。
- 「危ない言葉を見つけたら止める」という禁止リスト方式だけに頼らない。言い換えが無限にあるからです。
- 「防ぐ」と言い切る製品には警戒して、「減らす」仕組みを説明している製品を見る。
この文書の読み手として書かれているのは、セキュリティの専門家です。一般の利用者向けではないので、ここでは考え方だけを借りました。
OWASP:対策は7つ。確実に防ぐ方法は知られていない
OWASPの「LLM01:2025」のページは、対策として次の7つを挙げています(言い換えです)。AIの役割と範囲を決めておく、出力の形を決めて検査する、入出力をフィルターする、権限を最小限にする、危険度の高い操作には人間の承認を挟む、外部の文章を区別して扱う、攻撃を想定した試験を繰り返す。同時に、確実に防ぐ方法は今のところ知られていない、とも書いています。
AI各社:訓練、監視、確認画面、そして利用者への注意
| 会社 | 公式に書かれていること(言い換え) | 確認元 |
|---|---|---|
| OpenAI | 外部の文章に紛れた指示を見分けて無視するよう、AIを訓練している。監視の仕組みで攻撃を検出する。ChatGPT agentでは、購入などの前に確認を求める、ログインしない状態で使うモードがある、と2025年11月の記事に書かれている(このagentは、ヘルプによれば現在は提供終了)。利用者には、渡す情報やログインを必要なものだけにする、確認が出たら中身を見る、「必要な操作は何でもやって」のような広い頼み方を避ける、と案内している | OpenAI「Understanding prompt injections」(2025年11月7日)、OpenAI Help |
| Anthropic | 模擬的な攻撃を使った訓練、読み込む文章の検査、人の手による試験を組み合わせている。同社の社内試験で、2025年11月時点の最新モデル(Claude Opus 4.5)の攻撃成功率は1%。それでも、「意味のあるリスク」が残り、「解決にはほど遠い」問題で、「どのブラウザ用エージェントも無縁ではない」と書いている | Anthropic「Mitigating the risk of prompt injections in browser use」(2025年11月24日) |
| モデルの強化、悪意のある指示の検出、ユーザーへの確認、危険なリンクの伏せ字化など、何層もの防御を重ねる。たとえば予定の削除では、対象を示して明確に確認を求める | Google「Mitigating prompt injection attacks with a layered defense strategy」(2025年6月13日) |
Anthropicの1%は、同社の「適応型」の社内攻撃役が、1つの環境につき100回試したときの割合、という条件つきの数字です。同じ記事のグラフでは、同じ条件のOpus 4.5が1.4%と表示されていました(本文は「1%」と書いています)。2025年11月時点の特定のモデルの結果で、他社と比べるための数字ではありません。
OpenAIのヘルプ(ChatGPT agent)は、ログインしたサイトやつないだアプリを通じて、AIはメールやファイル、アカウント設定のような大事な情報に触れられる、と書いています。そして、必要なアプリだけを有効にして、重要なログインは避けるよう勧めています。また、安全のための仕組みは「すべての危険をなくすものではない」ので、AIの作業を見守って、怪しければ止めるよう案内しています。
IPA(日本):AIブラウザは社内用と社外用を分ける
IPAの豆知識(4月2日に公開。資料には「2025年12月版」の表示と「2026年3月」の日付がある)には、日本の利用者に向けて、具体的な助言が2つあります。
- AIブラウザ(AIが組み込まれたウェブブラウザ)は、閲覧中のページや履歴をAIと共有します。ウェブページに悪意のある指示が含まれると、利用者の指示と取り違えて、情報漏えいや不正送金のような操作をしてしまうおそれがある。対策はまだ不完全なので、日常で使うAIブラウザでは、社内ポータルのような大事な情報にアクセスしないように、使い分ける。
- AIが外部の情報を検索して取り込む仕組み(RAG)では、メールのような外部由来のデータも取り込まれる。社内の文書と不正なメールが同時に取り込まれると、社内の情報が外に出るおそれがある。検索の範囲を適切に限るなど、運用で選べる対策を検討する。
今日からできる対策(チェックリスト)
公式資料に書かれたことを土台にした、僕らの整理です。
- AIに渡す権限を、仕事に必要な分だけにする。メール、予定表、ファイル、ログインしたサイトは、使うときだけつなぐ。(OpenAI、OWASP、NCSC)
- お金、送信、削除、共有、設定の変更は、実行の前に確認が出る設定にして、確認画面は中身を読む。「いつも許可」は、信頼できる道具だけにする。(OpenAI、Google、OWASP)
- 銀行、会社の内部サイト、仕事用のメールのような大事なものを開いたまま、AIブラウザに調べものを任せない。普段使いのブラウザと分ける。(IPA、OpenAI)
- 「何でも好きにやって」ではなく、範囲の決まった頼み方にする。(OpenAI)
- 知らない相手から届いた文章や書類を、そのままAIに読ませない。あとで要約させるときは、重要な操作の権限を切っておく。(IPA、NCSC。後半は僕らの整理です)
- AIが急に、頼んでいない操作を始めたら、すぐ止める。パスワードを変え、使っていた連携を外す。(OpenAI)
- パスワードや認証コードを、AIとのチャットに貼らない。
見立てです。迷ったときに役立つのは、「もし、この文章を書いた他人が、AIに命令できるとしたら、何をされると困るか」を考えることだと思います。困る操作が思い浮かぶなら、そこは自分で確認する設定にしておく、という判断になります。
使う前の4つの質問も、僕らの整理です。
- AIは、他人が書いた文章(ウェブ、メール、書類)を読みますか。
- AIは、読んだあとに、送る、消す、買う、のような実際の操作をしますか。
- その操作の前に、自分に確認が出ますか。
- その間に、AIが触れられる情報の中に、失ったら困るものがありますか。
1と2が両方「はい」なら、この記事の対策が特に当てはまります。
気をつけること
- この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません。この記事は、公式・一次資料を読んでまとめたものです。
- 数字は変わります。Anthropicの1%は、2025年11月の記事の特定モデルについての数字です。10月23日に読み直した時、記事ページの更新日(ページ内の情報)は10月9日でしたが、本文に新しいモデルの数字は見つかりませんでした。最新のモデルや、他の機能については確認していません。
- OpenAIの「Understanding prompt injections」は、読めたのが1回だけです。ChatGPT agentのヘルプは、10月23日に読み直したところ、概要の冒頭に「ChatGPT agentはもう提供されていない」という趣旨の記載があり、長い複数手順の作業は「ChatGPT Work」、ブラウザの作業は「Using cloud browser in ChatGPT」を見るよう案内されていました。この記事で紹介した例や助言(パスワード再設定のコードの例、必要なアプリだけ有効にする、など)は、そのページに今も載っています。ただ、今の機能(ChatGPT Workなど)にそのまま当てはまるかは確認していません。なお、ログインしない状態で使うモードは、このヘルプでは見つからず、OpenAIの「Understanding prompt injections」に書かれていました。
- OWASPのページは2025年4月(ページ内の情報では4月17日)の更新分です。2026年10月23日に読み直した範囲では、より新しい版の記載は見つかりませんでした。
- IPAのページでは、AI各社の名前や機能は個別に確認していません。IPAの資料の中の統計は、第三者の調査の引用なので、この記事では使っていません。
- AnthropicのClaude for Chromeのヘルプには、プロンプトインジェクションの記載がありませんでした。同社の記事とは別に、確認画面(作業前に計画を見せるモード)の説明があることだけを確認しました。
- 「完全に防ぐ」ことは、公式資料のどれも約束していません。個人でも仕事でも、AIが触れられる情報と操作の範囲が、被害の大きさを決めます。
- 仕事で使う場合は、会社の決まりに従ってください(同じ連載の「職場でAIを使うルールのつくり方」を参照)。
出典
- LLM01:2025 Prompt Injection(OWASP Gen AI Security Project、2026年10月23日確認)
- Prompt injection is not SQL injection (it may be worse)(NCSC 英国国家サイバーセキュリティセンター、2026年10月23日確認)
- AI利用者のためのセキュリティ豆知識(IPA 独立行政法人情報処理推進機構、2026年10月23日確認)
- AI利用者のためのセキュリティ豆知識 公開版PDF(IPA、2026年10月23日確認)
- Understanding prompt injections: a frontier security challenge(OpenAI、2026年10月23日確認)
- ChatGPT agent(OpenAI Help、2026年10月23日確認。ページ冒頭に提供終了の記載あり)
- Mitigating the risk of prompt injections in browser use(Anthropic、2026年10月23日確認)
- Getting started with Claude in Chrome(Claude Help Center、2026年10月23日確認)
- Mitigating prompt injection attacks with a layered defense strategy(Google、2026年10月23日確認)
更新履歴
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2026年10月25日 書き方を直しました。
- 前:運営者が使っていないと読める書き方 → いま:「この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません」。公式の資料を読んでまとめた記事で、使い心地は書いていない、という意味に直した
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2026年10月23日 公式の資料を読み直して、次の点を直しました。
- 前:Claude for Chromeの説明に、見えない文字が仕込まれたメールの例がある → いま:Anthropicのブラウザ利用の記事に、白い文字などで隠した指示を入れたメールの例がある、と直しました
- 前:OpenAIは購入などの前の確認と、ログインしないモードを用意している → いま:これはChatGPT agentについての2025年11月の記事の記載で、このagentは現在は提供終了、と書き足しました
- 前:Anthropicは「解決したとは言わない」と書いている → いま:「意味のあるリスク」が残り、「解決にはほど遠い」と書いている、と引用を直しました
- 前:Anthropicの1%は、条件つきの数字 → いま:同じ記事のグラフでは同じ条件が1.4%と表示されていた、と書き足しました
- 前:IPAの豆知識は2026年3月の資料 → いま:4月2日に公開、資料には「2025年12月版」の表示と「2026年3月」の日付がある、と書きました
- 前:ChatGPT agentのヘルプは機能の名前が古い可能性がある → いま:ヘルプの冒頭に提供終了の記載があり、今の機能に当てはまるかは未確認と書きました
- 前:Anthropicの数字は2025年11月の記事のもの → いま:10月23日に読み直しても新しいモデルの数字は見つからなかった、と書き足しました
- 前:OWASPの新しい版があるかは確認していない → いま:読み直した範囲では、新しい版の記載は見つからなかった、と書きました
