3行でいうと
- 店頭のスペースに縛られた小売では、売れ筋の少数しか並ばなかった
- 在庫の制約が小さいネット販売では、ニッチ商品の合計がヒットに匹敵しうる
- 生産・流通の民主化と、需要と供給をつなぐ仕組みが三つの追い風になる
- 効果は業界で差があり、ヒットへの集中が続くという批判もある
向いている人
ECやデジタルコンテンツの事業に関わる人、ニッチな分野で商売をしたい人。インターネットの経済の基本的な見方を知りたい人。
読む意味
品揃えの考え方や、見つける仕組み(検索・推薦)の価値を考える基本の枠組みが得られます。売れ筋に頼らない戦略を考える際の理論的な裏づけになります。
読むときの注意
効果は、複製や配送のコストがほぼゼロのデジタルコンテンツほど大きく、物理的な在庫が要る商品では限られます。ウェブでヒットへの集中が続くとする批判的な研究もあります。
どんな本か
雑誌『Wired』の編集長を務めたクリス・アンダーソンが、2004年の同名の記事を発展させて2006年に出した本です。需要を売上順に並べたグラフでは、少数のヒット商品が高い「頭」を作り、無数のニッチ商品が右へ長く伸びる「尾」になります。従来の小売では、店の棚には限りがあるため、尾にあたる商品は扱われませんでした。インターネットとEコマースでは在庫や流通のコストが大きく下がるので、尾の商品を扱え、個々の売上が小さくても合計は無視できない規模になる、というのが中心の主張です。
成立の条件として、生産手段の民主化、流通手段の民主化、需要と供給をつなぐ仕組みの三つが挙げられます。検索や推薦がなければニッチ商品は埋もれたままなので、見つける仕組みが鍵になります。2004年の記事では、音楽配信やDVDレンタル、書籍のオンライン販売などの数字が示されました。
日本語版の目次は14章で、大衆市場から無数のニッチ市場へ、ヒットの興亡、ロングテールの小史、三つの追い風、新しい生産者や集積者、潤沢と希少の経済などを論じます。一方で、ウェブはむしろヒットの重要性を高めているとする研究者の批判もあり、書評は効果がすべての業界に等しく当てはまるわけではない点も指摘しています。
中身の柱
- 第1〜3章:大衆市場からニッチ市場へ、ヒットの興亡、ロングテールの小史
- 第4章:三つの追い風。つくる、世に送り出す、見つける手助けをする
- 第5〜7章:新たな生産者、市場を作る集積者、新たな流行発信者
- 第8章:ロングテール経済。潤沢と希少
- 第9〜10章:短いヘッドの世界と、選択肢が増えることの意味
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概要
『ロングテール――「売れない商品」を宝の山に変える新戦略』は、雑誌『Wired』の編集長を務めたクリス・アンダーソン(Chris Anderson)が、インターネットとEコマースの普及によって、従来は「売れない商品」として市場から排除されてきた無数のニッチ商品が、集合体として大ヒット商品の売上に匹敵しうるという現象を論じた一冊である。原著『The Long Tail: Why the Future of Business Is Selling Less of More』は、2004年10月に『Wired』誌に掲載された同名の記事を発展させ、2006年にHyperionから刊行された(英語版Wikipediaによる)。英語版Wikipediaの著者項および同賞の受賞者一覧は、本書が2007年のジェラルド・ローブ賞ビジネス書部門を受賞したと記している。
日本語版は篠森ゆりこの訳で早川書房から刊行され、2014年5月23日にハヤカワ文庫NFとして文庫化された(早川書房の書誌による)。価格は902円で、ページ数は早川書房が416ページ、楽天ブックスが414ページと、情報源によって異なる。紀伊國屋書店の書誌では単行本版が302ページ、全14章とされる。邦題の副題は「『売れない商品』を宝の山に変える新戦略」であり、原題の直訳ではなく日本語版独自の表現である。
「ロングテール」という言葉は、需要を売上順に並べたグラフで、少数のヒット商品が作る高く急峻な「頭」に対し、無数のニッチ商品が右へ緩やかに長く伸びる「尾」の形を指す。ウィキペディア日本語版は、これを恐竜の尻尾のような形状と説明し、パレートの法則(上位20%が売上の80%を占める)との対比で語られることが多いとしている。
本の構成
本書はまず、物理的な陳列スペースに制約がある従来の小売業では、売れ筋の一握りのヒット(ヘッド)だけが棚に並び、売れ行きの少ない無数のニッチ商品(テール)は扱われてこなかった構造を説明する。続いて、在庫の制約がほぼないオンライン販売によってテールを取り扱えるようになり、個々の売上は小さくても合計がヒットに匹敵する現象が論じられる。
楽天ブックスに掲載された日本語版の目次は、冒頭の10章が次のとおりである。第1章「ロングテール――大衆市場から無数のニッチ市場へ」、第2章「ヒットの興亡――融通がきかない文化に縛られて」、第3章「ロングテール小史――通販カタログからショッピングカートまで」、第4章「ロングテールの三つの追い風――つくる、世に送り出す、見つける手助けをする」、第5章「新たなる生産者たち」、第6章「新しい市場――ヘッドからテールまで呑みこむ集積者」、第7章「新たな流行発信者――蟻がメガホンを手に入れた」、第8章「ロングテール経済――潤沢と希少」、第9章「短いヘッドの世界――商品スペースですべてが決まる」、第10章「何でも手に入る時代――選択肢がわんさとあるのはいいことだ」。同ページは「ほか」と記しており、11章以降の題名はここでは確認できない。
主要な内容
著者のクリス・アンダーソンは、英語版Wikipediaによれば1961年7月9日にロンドンで生まれ、ジョージ・ワシントン大学で物理学を学んだ後、カリフォルニア大学バークレー校で量子力学と科学ジャーナリズムを研究した。科学誌『Nature』『Science』の編集者を約6年務め、1994年から2001年まで『エコノミスト』誌に在籍し、2001年から2012年まで『Wired』誌の編集長を務めた。
本書の中心は、オンライン流通によって在庫コストと流通コストが劇的に下がったことで、これまで無視されてきたテールが集合的に無視できない市場規模を持つようになったという主張である。アンダーソンはこれを、ヒット依存のビジネスモデルを揺るがす構造的な変化と位置づける。市場成立の条件としては、「生産手段の民主化」「流通手段の民主化」「需要と供給をつなぐ仕組み」の三つの力を挙げる。日本語版第4章の題が示す「つくる、世に送り出す、見つける手助けをする」がこれに当たる。検索やレコメンデーションがなければニッチ商品は埋もれたままであり、見つける仕組みがロングテール経済の鍵だとされる。
具体例
アンダーソンが2004年にWired誌で示した数字は、ChangeThis掲載の同記事版によれば次のとおりである。ウォルマートの店頭に並ぶ楽曲は約3万9,000曲で、1タイトルを置くには少なくとも10万枚のCDが売れる見込みが要る。音楽配信のラプソディは73万5,000曲を擁し、上位10万曲のすべてが毎月少なくとも1回は再生され、その状態が上位40万曲まで続くとされる。DVDレンタルのネットフリックスは約2万5,000タイトルを抱え(典型的なブロックバスターは約3,000)、レンタルの5分の1が上位3,000タイトルの外から生まれ、レンタルの約6割が推薦に由来するという。書籍のアマゾンについて、同記事は売上の4分の1が上位13万タイトルの外から来ているとする。なお、後年のブログ(Niklas Rosenbergによる)はこれを「半分以上」と紹介しており、時期や版によって数字が異なる。13万という数字は、典型的な書店バーンズ&ノーブルの取扱点数に相当するとされる。
こうした主張には批判もある。英語版Wikipediaによれば、ハーバード・ビジネス・スクールのアニータ・エルバースは2008年のHarvard Business Review論文で、ウェブはむしろヒットの重要性を拡大していると論じた。Wilson Quarterlyの記事によれば、エルバースはラプソディの3か月・3,200万件超のデータで、上位10%のタイトルが再生の78%、上位1%が32%を占めると示した。ウィル・ペイジらによる英国の音楽サービスの分析では、提供楽曲の80%が1年間で1枚も売れなかった。他方、2003年のブリニョルフソンらの研究は、オンライン書店での品揃えの拡大がもたらす消費者便益が、価格低下の便益の約10倍だと示した(いずれも英語版Wikipediaによる)。
実践への応用
ロングテールの発想は、実店舗の棚や在庫の制約から解放されたECサイトやデジタルコンテンツ配信事業者にとって、売れ筋だけに依存しない品揃え戦略を考える理論的な裏付けになる。ニッチな趣味や専門性の高い商品を扱う中小事業者も、全国・全世界を対象にすれば、地域では成立しなかったニッチ需要を掘り起こせる。
ただし、効果はすべての業界に等しく当てはまるわけではない。複製・配送コストがほぼゼロのデジタルコンテンツほど顕著で、物理的な在庫が必要な商品では限定的になる。エルバースらの批判が示すように、品揃えを広げても売上がヘッドに集中し続ける可能性があるため、テールの品揃えは「売上の山」としてよりも、顧客の満足度や回遊を支える資産として評価する視点も要る。
位置づけ・評価
本書はインターネット時代のビジネスモデルの変化をいち早く捉えた著作として大きな反響を呼び、ロングテールという言葉はEコマースやコンテンツビジネスの基本的な経営用語として定着した。ハヤカワ文庫版の紹介文は、本書を『フリー』『MAKERS』の原点となった名著と位置づけている。著者はその後、2009年に『フリー〈無料〉からお金を生みだす新戦略』、2012年に『Makers: The New Industrial Revolution』を発表した。2009年にはドローン関連企業の3D Roboticsを共同で設立しており、2012年にWired編集長を退いた後も事業家として活動の場を広げている。