3行でいうと
- 決算や発表の数字は、会社が決めた定義の上に載っています。SECは、会社が独自の指標を出すなら、定義、役に立つ理由、経営での使い方を添えることを、基本の考え方として示しています。
- 会計基準にそろえた数字(GAAP)と、会社が調整した数字(非GAAP)は別ものです。SECの規則(Regulation G)は、非GAAPを出すなら、いちばん近いGAAPの数字と、その差を示す調整表を出すように求めています。
- OpenAIとAnthropicの読んだ発表は、「年換算」「ランレート」という言葉を、定義や期間の説明なしに使っていました。どう数えたかは、発表からは分かりません。
この記事は、公式の文書を2026年10月16日に読んでまとめたもので、実際に使って確かめた記録ではありません。決算の分析もしていません。投資の助言ではありません。数字の大きさや良し悪しの判断はしていません。
先に結論
- 数字を見る前に、定義を探す。 「何を数えた数字か」「どの期間か」「前の期と同じ数え方か」の3点です。
- 文書の種類で、信頼のしかたが変わる。 決算リリース、四半期報告(10-Q)、年次報告(10-K)は、役割も、監査の有無も違います。
- 「年換算」型の数字は、定義が書かれていないと、何を数えたのか分からない。 定義が書かれていなければ、「会社の発表の数字」として、引用の側で断ります。
- 確認できていないこと。 日本の決算短信や有価証券報告書の制度は、今回は読めていません。
どの文書に、何が書いてあるか
SECの投資家向けの案内(2021年1月25日付)は、年次報告(10-K)に4つの主な部分があると説明しています。事業の説明、リスク要因、経営陣による分析(MD&A)、財務諸表(と、それを説明する注記)です。四半期報告(10-Q)は、同じ形式の「短い版」で、第1〜第3四半期のあとに出ます。10-Kの財務諸表は、独立した会計士の監査を受けたもの、と書かれています。10-Qの監査の有無は、そのページには書かれていませんでした。
決算の発表そのものは、別の文書です。SECの様式(Form 8-K)の項目2.02は、完了した四半期や年度の業績を公表した会社に、その発表の本文を添付して出すよう求めています。電話会議やウェブ配信で補足する場合の条件も、同じ項目に書かれています。なお、読んだMicrosoftのリリースでは、財務諸表の見出しに「Unaudited(監査を受けていない)」の印が付いていました。
| 文書 | 何か | 読むときのポイント |
|---|---|---|
| 決算リリース | 会社が自分の言葉でまとめる発表。8-Kの添付として出る | 見出しの言葉は会社が選ぶ。非GAAPと調整表、定義の節を探す |
| 10-Q | 四半期の報告。10-Kの短い版 | MD&Aの説明と、財務諸表の注記 |
| 10-K | 年次の報告。財務諸表は監査つき | 事業、リスク要因、MD&A、注記の順に |
| 説明会(電話会議・配信) | リリースを補足する口頭の説明 | 資料と照らす。一定の条件を満たせば、8-Kを別に出さなくてよい扱い |
数字の定義を読む5つの問い
1. これはどの種類の数字か。 会計基準にそろえたもの(GAAP)、会社が調整したもの(非GAAP)、事業の指標(運営指標)のどれかを、まず見分けます。
2. 定義が書いてあるか。 SECが2020年1月30日に出した指針(MD&Aについて)は、会社が運営指標を出すとき、定義と計算方法、投資家に役立つ理由、経営での使い方を添えることを、状況に応じて考えるように、と書いています。計算に見積もりや前提があるなら、それも書くことを考えるように、とあります。
3. 何を除いて、何を足したか。 Regulation G(17 CFR 244.100)は、非GAAPの数字を公に出す会社に、いちばん近いGAAPの数字を示すこと、2つの数字の調整表(過去の数字なら数値で)を出すことを求めています。また、重要な事実について誤りを含んだり、必要な事実を欠いて誤解させたりする非GAAPの数字は出してはいけない、とも書かれています。読んだのは、2026年10月13日時点の最新版として表示されたeCFRのページです。
4. 期間と基準は何か。 同じ会社の「前年より」でも、為替の影響を除く比較(定数為替)なのか、そうでないのかで、数字は変わります。定数為替は、比較する期の平均為替レートで換算し、為替の変動を除いて比べる見方です(Microsoftのリリースの定義を言い換えたもの)。
5. 前の期と同じ数え方か。 同じSECの指針は、計算や表示の方法が期のあいだで変わったときは、重要な範囲で、違い、理由、影響を説明し、過去の数字を組み替えるかも考えるように、と書いています。Microsoftのリリースにも、過去の一部の数字を、今の表示にそろえて「recast(組み替え)」したという注記がありました。
例:Microsoftの決算リリースを、5つの問いで読む
2026年7月29日付の「Microsoft Cloud and AI Strength Fuels Fourth Quarter Results」(四半期は6月30日まで)を読みました。金額は、ここには書きません。構成だけを見ます。
- 非GAAPの定義の節がある。 この非GAAPは、OpenAIへの投資の影響を除いた数字で、リリースは「Impact from OpenAI」と名前を付けて、星印を付けています。前の年(2025会計年度)の数字にも、同じ調整が入っています。
- 調整表がある。 非GAAPと、会計基準にそろえた数字の差を示す表です。
- 定数為替の節がある。 定義と、その調整表があります。
- 見出しなどで使われているのに、そのリリースでは定義されていない言葉もある。 僕らが取得できた抽出では、「Microsoft Cloud revenue」、「commercial remaining performance obligation」などは、リリースの中に定義が見当たりませんでした。会社が別の文書(年次報告など)で定義している可能性はありますが、僕らは読んでいません。
- 定義が変わった旨の記載はない。 組み替えの注記があるだけで、指標の定義の変更は書かれていない、という抽出でした。
こうして見ると、リリースには「定義が書かれた数字」と「書かれていない数字」が同居しています。書かれていないこと自体は、誤りではありません。ただ、読む側が、他の文書で補う作業が必要になります。
決算リリースの構成(Microsoft、2026年7月29日付)
抽出で確認できた順序は、次のとおりです。1) 見出しと経営者のコメント、2) 非GAAPの調整表(四半期と通期)、3) セグメント別のハイライト、4) 通期の結果と見通し(具体的なガイダンスは電話会議に回す、とされている)、5) 製品の発表、配信の案内、連絡先、6) 非GAAPと定数為替の定義、7) 定数為替の調整表、8) 会社紹介と将来予測についての注意書き、9) 財務諸表(損益、包括利益、貸借対照表、キャッシュフロー、セグメント)、10) 利用者への重要な注意と、ダウンロードできるデータ。
定義の節は、リリースの後半にあります。数字の見出しだけを読んで、定義を読み飛ばしやすい並びです。これは僕らの感想で、会社への批判ではありません。
「年換算」「ランレート」の数字:定義の書き方を読む
ランレートは、一般には、直近の売上の勢いを1年に引き伸ばして表す言い方だと僕らは理解しています。これは見立てで、読んだ発表には定義がありません。次の2つの発表の書き方を読みました。
- OpenAI(2026年8月31日、「A milestone in expanding access to AI」)。 「annualized revenue run rate」という言葉を、見出しの要約と本文で使っています。ただし、この言葉の定義や計算方法、測った期間は書かれていませんでした。総額か純額か、どの収益源を含むかも、書かれていません。
- Anthropic(2025年12月3日、Bun買収の発表)。 「run-rate revenue」という言葉を使い、これも定義されていません。基準になる期間や、製品ごとの内訳も書かれていません。
SECの規則や指針は、SECに報告する会社の開示を対象にしたものです。これらの発表にそのまま当てはまるのかは、この記事では確認していません。ですから、ここで言えるのは、「読んだ発表の本文には、数え方の説明が見当たらない」というところまでです。
引用する側の使い方(見立てです)
ここからは、僕らの見立てです。SECの文書を読んだうえでの整理で、公式の推奨ではありません。
- 数字を書くときは、出どころと種類を一緒に書く。 「会社の発表による、年換算の数字」「非GAAPの数字」のように、種類を添えます。
- 定義の節を先に探す。 リリースなら、星印、「Definition」の節、調整表です。見つからなければ、「定義は読めなかった」と書きます。
- 比べるときは、同じ定義どうしにする。 別の会社の同じ名前の数字が、同じ定義だとは限りません。
- 報道は二次情報として扱う。 報道の見出しは、定義の脚注を落とすことがあります。会社の発表か、SECへの提出書類に当たります。
気をつけること
- この記事では、決算を分析していません。2026年10月16日に、公式の文書を読んだ内容です。投資の助言ではありません。
- 取得できたのは、ページの抽出です。「定義が見当たらない」は、「抽出に見当たらなかった」という意味で、文書に本当に無いとまでは言い切れません。
- SECの非GAAP指標に関する職員の解釈集(C&DI)は、取得に失敗して読めていません。日本の決算短信、有価証券報告書の制度も、読めていません。
- OpenAIとAnthropicの発表は、書き方(言葉の使い方)だけを読みました。数字は、この記事に書いていません。
- 米国のSECの制度は、日本の会社には、そのまま当てはまりません。
出典
- How to Read a 10-K/10-Q(SEC Investor.gov、2021年1月25日、10月16日確認)
- Commission Guidance on Management's Discussion and Analysis(SEC、2020年1月30日、10月16日確認)
- Regulation G, 17 CFR 244.100(eCFR、10月16日確認)
- Form 8-K(SEC、項目2.02、10月16日確認)
- Microsoft Cloud and AI Strength Fuels Fourth Quarter Results(Microsoft、2026年7月29日、10月16日確認)
- A milestone in expanding access to AI(OpenAI、2026年8月31日、10月16日確認)
- Anthropic acquires Bun(Anthropic、2025年12月3日、10月16日確認)
更新履歴
- 2026年10月25日 書き方を直しました。
- 前:運営者が使っていないと読める書き方 → いま:「この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません」。公式の資料を読んでまとめた記事で、使い心地は書いていない、という意味に直した
