3行でいうと
- 数字の見出しを見たら、「何と比べた数字か」「何を測った数字か」「どんな条件か」の3つを探します。公式の発表でも、これが書かれていない数字があります。
- 「最大」は一番よい場合の数字、「平均」は全体をならした数字で、意味が違います。「%」と「倍」と「ポイント」も、読み違えやすい言葉です。
- 条件は、本文の端や注に小さく書かれていることがあります。消費者庁の文書も、強調された表示と、それを補う注意書きの関係を、くわしく取り上げています。
この記事は、公式の文書を読んでまとめたもので、AIの速さや費用を測って確かめたものではありません。各社の数字が正しいかどうかは、この記事では確かめていません。たとえ話と、「見立てです。」で始まる段落は、僕らの考えです。法律の話は、公式資料の紹介で、助言ではありません。
先に結論
公式の文書を読んで言えることは、次の4つです。
- 数字には、比べる相手があります。 OpenAIの2026年10月7日の発表の「44%」は、GPT-5.6 Instantとの比較です。Anthropicの2026年9月22日の発表の「約40%低い」は、Opus 5との比較です。相手が違う数字どうしは、並べて比べられません。
- 測ったものと条件が書かれていない数字があります。 「ウェブ検索が要る質問で」「自社テストで」と、条件の一部だけが書かれていて、質問の数や測り方は、僕らが読んだ範囲では見つかりませんでした。
- 「最大」「平均」「約」の一言で、意味が変わります。 Googleの2026年10月13日の発表には「最大2.3倍」と、「2.85倍」が出てきます。後者は、使った機材とソフトが書かれていました。
- 条件は、小さく書かれがちです。 消費者庁の文書は、目立つ表現と、それを補う注意書きの関係を、くわしく調べています。
たとえ話:「最大70%オフ」の札
僕らのたとえです。公式の文書にあるものではありません。
お店に「最大70%オフ」と大きく書いてあるとします。70%引きの商品が1つだけでも、この札は成り立ちます。「全品が70%引き」とは、まったく別のことです。
AIの「最大2.3倍」も、同じ読み方ができます。一番よい場面の数字かもしれません。自分が使う場面では、どのくらいなのかは、条件を見ないと分かりません。
公式の発表で、数字を読んでみる
2026年10月16日に読んだ範囲で、4つの数字を取り上げます。「速い」「安い」と言いたくなる数字ですが、条件を並べると、分かることと、書かれていないことが見えます。
| 数字 | 比べる相手 | 測ったもの | 書かれていた条件 | 読んだ範囲で書かれていなかったこと |
|---|---|---|---|---|
| OpenAI:答え始めるまでが平均で約44%早い | GPT-5.6 Instant | 答えが始まるまでの時間 | ウェブ検索が要る質問(この44%の文には「社内評価」の語は付いていない) | 質問の数、「平均」の取り方、44%の定義 |
| Anthropic:動かす費用が約40%低い | Opus 5 | 動かす費用 | 自社テスト、標準設定、「典型的な作業」 | 「典型的」の中身、サンプルの数 |
| Anthropic:定価が20%低い | Opus 5 | 入力と出力の定価(リスト価格) | 定価どうしの比較 | (比べる相手と対象が、はっきりしている) |
| Google:最大2.3倍速い(量子化学の計算) | (比較相手の記載を確認できず) | 計算の速さ | 「最大」とだけ | 機材、試験条件、比べる相手 |
OpenAIの44%は、「速い」の意味も、2通りに読めます。「始まるまでの時間が44%短くなった」と読むのが自然ですが、ページは、その定義を書いていませんでした。見立てです。たとえば、これまで10秒だったなら、5.6秒ほどになる、という読み方になります。
Anthropicの「定価が20%低い」は、条件がはっきりしている数字の例です。定価は、公開された価格表と照らして確かめられます。一方、「動かす費用が40%低い」は、使い方で大きく変わるはずなので、自分の場合に当てはまるかは、書かれていない条件しだいです。
条件が書かれている数字もある
Googleの同じ発表には、Gemma 4 E2Bというモデルを、vLLMという道具とA100というGPUで動かし、全体で2.85倍速くなった、という例がありました。毎秒の処理量が、約37,900トークンから、10万8千トークン超になった、と書かれています。トークンの一致は100%で、品質の低下はなかった、とも書かれています。機材、道具、モデルが特定されているので、確かめる手がかりがあります。
「前の製品より最大◯倍」
Appleの2026年9月22日(米国版)の発表には、新しいMac miniで「AIの性能が最大4倍」、Mac Studioで「最大4.3倍」とあります。注記を見ると、Mac miniは前の世代(M4搭載のMac mini)との比較と書かれています。Mac Studioの注記は、Appleが2026年7月にテストしたとだけあり、比べる相手は、読んだ範囲では分かりませんでした。比べる相手や測った主体が書かれていれば、読む側には助けになります。ただし、どの作業での「最大」かは、読んだ範囲では分かりませんでした。
「%」「倍」「ポイント」の落とし穴
統計局のe-Statの用語集は、パーセンテージの変化を、「最初の期間の値を基準にした割合」と説明しています。基準が最初の値なので、どれを「最初」とみなすかで、結果が変わります。ここから先は、僕らの計算です。
- 100から110になった。 基準は100。増えた分は10なので、10%の増加です。
- 110から100に戻った。 基準は110。減った分は10なので、約9.1%の減少です。「10%増えて、10%減る」と、元に戻りません。
- 「倍」と「%」。 「2倍」は、100%の増加と同じ意味です。「2.5倍」は150%の増加にあたり、「250%」と言い間違えやすい数字です。
「%」と「ポイント」の違いも大切です。パーセントポイントは、割合どうしの差を表すときの単位です。Anthropicの発表の、Terminal-Bench 4.0というテストでは、Opus 5.5が66.4%、Opus 5が52.3%でした。差は14.1ポイントです。「14%高い」とは違います。元の52.3に対しては、約27%の増加にあたります。
同じ発表は、Opus 5.5の点数の誤差の幅(標準誤差)が、±2.6ポイントとも書いています。点数は、測るたびに少し動くことがある、という意味だと読みました。
ベンチマークの数字は、さらに条件が多い
ベンチマークは、AIに共通の問題を解かせて、点数をつけるテストです。Anthropicの発表は、Terminal-Bench 4.0で、公開のリーダーボード(順位表)ではOpus 5が51.8%、自社の環境で再現すると52.3%だった、と書いています。同じモデルでも、測る環境で数字が少し変わる例です。
また、同じ発表は、ベンチマークの差は、現実の差の目安として信頼しにくい、という趣旨も書いていると、僕らは読みました。さらに、安全装置が作動したときは、別のモデルが処理を引き継ぐので、それがOpus 5.5の点数を下げている可能性がある、とも書いています。
見立てです。数字そのものよりも、「どんな設定で、どう測ったか」が、読む側には大事なのだと思います。ベンチマークの読み方は、別の記事で扱っています。
条件は、小さく書かれがち:消費者庁の文書から
消費者庁の文書は、広告で「目立つ表現」と「それを補う注意書き」を、次のように呼んでいます。
- 強調表示: 断定的な表現や、目立つ表現で、品質や価格などの条件を強く伝える表示。
- 打消し表示: 強調表示だけでは、ふつう分からない例外や制約を補う表示。
文書によれば、強調表示と打消し表示が食い違うと、消費者が誤って受け取るおそれがあり、景品表示法の上で問題になりうる、とされています。留意点として、文字が小さすぎないこと、強調表示の近くに置くこと、離れるなら存在が分かるようにすること(「※」があっても、別の画面だと気づかれないとされる場合もあります)、動画では表示時間や画面にも留意点があることなどが挙がっています。
この文書は、2016年から2018年にかけた、商品やサービスの広告についての調査です。AIの発表や、AI会社の広告だけを対象にしたものではありません。調査の数字の例は、次のとおりです。
- 紙面の広告(印刷物の広告)で、8ポイント未満の小さな文字の打消し表示が56.9%。
- 動画広告で、2秒以下しか表示されない打消し表示が42.4%。
- 打消し表示を「見ない・読まない」と答えた人は、紙面の広告(印刷物の広告)で58.9%、動画で67.4%。
見立てです。AIの発表は広告とは違うので、そのまま同じ話ではないと思います。ただ、「目立つ数字」と「小さな条件」を、読む側が別々に読まないと見落とす、という点は参考になると思います。
誤解されやすい点
「公式の発表だから、測り方も分かる」わけではない OpenAIの44%には、読んだ範囲で、測り方の説明が見つかりませんでした。別の資料にある可能性はありますが、確かめられていません。
「社内評価」は、会社が自分で測ったという意味 別の人が同じ条件で測った結果かどうかは、書かれていません。
「速さ」や「費用」の数字は、自分の使い方では変わる Anthropicの「典型的な作業」のように、条件が広い言葉のときは、とくにそうです。
別の会社の数字は、そのまま並べられない OpenAIの「44%」と、Anthropicの「出力が30%超速い」(Opus 5との比較)は、測るものも比べる相手も違うので、並べて優劣をつけられません。
今日からできること
- 数字を見たら、3つの問いを探す。 「何と比べて」「何を測って」「どんな条件で」。
- 「最大」「約」「平均」に丸をつける。 一番よい場合の話か、ならした話か。
- 「倍」と「%」を、小さな数字に置き直す。 「100が110」のように置いて、読み違えていないかを確かめます。
- 「ポイント」と「%」を区別する。 割合どうしの差は、ポイントです。
- 別の会社の数字を並べるのは、条件がそろっているときだけ。
やってはいけないこと: 条件が書かれていない数字だけを引用して、「Aは○%速い」と人に伝えること。自分の仕事に使うかどうかは、自分の場面で確かめます。
気をつけること
- 読んだ日は2026年10月16日です。発表のページは、あとから書き換わることがあります。
- 読んだ内容は、WebFetchが返す要約や抽出です。文章は自分の言葉で言い換えています。「書かれていなかった」は、読んだ範囲のことで、別のページ(システムカードなど)に書かれている可能性は確かめていません。
- 各社の数字が正しいかどうかは、この記事では確かめていません。
- 「パーセントポイント」の公式の定義の文書は読んでいません。e-Statのページに、ポイントへの言及はありませんでした。説明と計算は、僕らのものです。
- 消費者庁の文書は、2016〜2018年の、広告についての調査です。AIの発表が景品表示法の対象になるかどうかの判断は、していません。法律の助言ではありません。
- 表の「最大2.3倍」の比べる相手は、読んだ範囲では確認できませんでした。
出典
- GPT-6 and Intelligent UI for everyone(OpenAI、2026年10月7日付、2026年10月16日確認)
- Introducing Claude Opus 5.5(Anthropic、2026年9月22日付、2026年10月16日確認)
- Gemini 4 Argon(Google、2026年10月13日付、2026年10月16日確認)
- The new Mac mini and Mac Studio are available today(Apple Newsroom米国版、2026年9月22日付、2026年10月16日確認)
- 打消し表示に関する表示方法及び表示内容に関する留意点(消費者庁、2026年10月16日確認)
- 打消し表示に関する実態調査報告書(概要)(消費者庁、2026年10月16日確認)
- パーセンテージ変化(日英統計用語集、統計局 e-Stat、2026年10月16日確認)
更新履歴
- 2026年10月25日 書き方を直しました。
- 前:運営者がやっていないと読める書き方 → いま:主語を記事にして、「この記事は、実際にやって確かめた記録ではありません」と書きました。運営者が使っているものを、使っていないと読ませないための直しで、内容や数字は変えていません。
