3行でいうと

  • 針探し試験は、長い文章に埋めた一文を見つける試験。やさしい課題で、満点に近くても長文全体を使いこなせる証拠にはならない。
  • 2023年の論文では、答えが入力の真ん中にあると正答率が落ちる傾向(U字型)が見つかった。
  • 2024年のRULERでは、どのモデルも長さが増えると大きく下がり、「対応」と書かれた長さより短い所で基準を割るモデルが多かった。
  • 論文のモデルは当時のものなので、今の最新モデルの数字ではなく、傾向を知る材料として読む。

この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません。この記事は公式の文書や論文を読んでまとめたものです。

先に結論

前提:用語

針探し試験の読み方

針探し試験は、とても単純な課題です。Chromaの調査報告は、これを「既知の一文を、無関係な文章の中から取り出す単純な検索課題」で、多くの場合、言葉の一致(字面の一致)で見つけられる、と説明しています。このため、最新のモデルがほぼ満点を取る一方で、「長文脈は解決済み」という誤解を生んだ、と指摘しています。

見立てです。針探しの数字を見るときに、確かめたい点は次の4つです。

確かめる点 なぜか
針は1つか、複数か Googleの文書は、針が1つの試験で高い性能が出るが、複数だと同じ精度にならず、文脈によって大きく変わる、と書いている
質問と針の言葉が一致しているか NoLiMaは、字面の一致を避けると、長さで大きく下がると報告している
紛らわしい文(妨害)があるか 実際の資料は、似て非なる文が混ざる
どの長さまでの結果か 長さごとの結果があるかどうか。一番長い所だけ、が多い

研究1:Lost in the Middle(2023)

Liuらの論文(TACL 2023)は、複数文書の質問応答と、キーと値の検索で、関連する情報の位置を変えました。要旨によると、位置を変えると性能が大きく落ちうる、最も良いのは情報が入力の先頭か末尾にあるとき、真ん中にあると大きく落ちる、長い文脈に特化したモデルでも同様、とされています。

数字は論文の本文から読みました。

条件は、当時のモデル(2023年のGPT-3.5-Turbo、Claude-1.3、MPT-30B、LongChatなど)で、文書の数は10・20・30件(約2千〜6千トークン)です。今の100万トークンのモデルの結果ではありません。

研究2:RULER(2024)

HsiehらのRULER論文(COLM 2024)は、針探しを広げた合成のベンチマークです。複数種類・複数個の針、道筋をたどる課題(multi-hop tracing)、集計(aggregation)など13課題で、17のモデルを評価しました。

要旨の主な結果は次のとおりです。

論文は、Llama2-7Bの4Kでの成績(85.6%)を基準線にして、これを割らない最大の長さを「実効の長さ」と呼びます。

RULERの表3(抜粋)

論文の表3から抜粋しました。数字は論文のまま、課題13個の平均(%)です。モデルは2024年当時のものです。

モデル 公称の長さ 実効の長さ 4K 32K 64K 128K
Gemini-1.5-Pro 1M 128K超 96.7 95.9 95.9 94.4
GPT-4 128K 64K 96.6 93.2 87.0 81.2
Llama3.1(70B) 128K 64K 96.5 94.8 88.4 66.6
Qwen2(72B) 128K 32K 96.9 94.1 79.8 53.7
Yi(34B) 200K 32K 93.3 87.5 83.2 77.3
Mixtral-8x22B 64K 32K 95.6 90.9 84.7 31.7
Mistral-v0.2(7B) 32K 16K 93.6 75.4 49.0 13.8

読み取れること(論文の範囲で)は次のとおりです。

  • 同じ表の中で、4Kではほとんど差がないのに、長さが増えると差が大きく開きます。
  • Gemini-1.5-Proは、論文が試した最大の長さ(128K)でも基準を上回りました。論文は、より難しい版での確認が今後の課題、と書いています。
  • 公称の長さと実効の長さが大きく離れたモデルが多数あります。

この表は2024年当時のモデルの結果です。現在のモデルは含まれていません。

研究3:NoLiMa(2025)

Modarresiらの論文(ICML 2025)は、針と質問の言葉の重なりを最小にして、潜在的なつながりを推論しないと見つけられない針探しを作りました。128K以上に対応するとされる13のモデルを評価した結果は次のとおりです。

論文は、字面の一致がない場合に、注意機構(どの語に注目するかの仕組み)が長い入力で見つけにくくなることが原因と考えられる、と分析しています。これは論文の分析であり、確定した説明とは限りません。

研究4:Chroma「Context Rot」(2025年7月)

ベクトルデータベースを作るChromaの技術報告です。GPT-4.1、Claude 4、Gemini 2.5、Qwen3を含む18のモデルを評価しています。課題の難しさを一定にして、入力の長さだけを変えた、と説明されています。

報告は、関連情報が文脈にあるかだけでなく、どう提示するかが大事で、文脈のつくり方(context engineering)が重要、と結論しています。これは企業の調査で、査読を経た論文ではありません。

各社の公式の見解

実務での使い方(見立てです)

見立てです。以下は、読んだ資料からの整理で、検証したものではありません。

  1. 必要なものだけ入れる。 Googleの文書は、渡す必要のないトークンは渡さないのが最善、と書いています。Chromaの結果(関連部分のみ vs 全体)も同じ方向です。
  2. 構成を整える。 長い資料は先頭、質問は末尾。引用を先に抜き出させる。
  3. 重要なことは複数箇所に頼らない。 針が複数あるほど落ちやすいため、取り出すべきものは数を絞るか、段階に分ける。
  4. 自分の課題で測る。 自分の資料・質問・長さで、位置を変えて試す。論文の枠組み(位置を変える、長さを変える)はそのまま使えます。
  5. 長いなら検索で絞る(RAG)。 長い入力に全部入れる代わりに、関連部分を検索して入れる方法があります(別記事「RAGの設計」)。

気をつけること

出典

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