3行でいうと

  • 文化庁の「考え方」は、AIの学習、生成物を使う段階、生成物が著作物になるか、の3つに分けて考える。
  • 法的な拘束力はなく、2024年3月15日に文化審議会の小委員会がまとめた文書。
  • 学習の段階は著作権法第30条の4が中心。生成物を使う段階は、類似性と依拠性で判断する。
  • AIが自律的に生成したものは著作物にあたらず、人が創作的に寄与すれば著作物になりうる。

この記事は、文化庁などの公式資料と、e-Gov法令検索の条文を読んでまとめたものです。法律と公式資料の紹介であり、法的な助言ではありません。「この場合は侵害になるか」という個別の判断は、弁護士などの専門家に相談してください。文化庁の相談窓口も、資料の中で案内されています。僕らの考えは「見立てです。」と分けて書きました。

先に結論

何が起きているか(日付つき)

日付 できごと 確かめた先
2024年3月15日(令和6年) 「AIと著作権に関する考え方について」を文化審議会の小委員会がまとめた 文化庁
2024年4月 同【概要】を文化庁著作権課が作成 文化庁
2024年7月31日 「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」を公表 文化庁
2025年9月11日 文化庁著作権課が「生成AIをめぐる最新の状況について」を作業部会に提出 文化庁
2026年6月12日 知的財産戦略本部が「知的財産推進計画2026」を決定 首相官邸
2026年7月14日 人工知能基本計画(第Ⅱ期)を閣議決定。知的財産や対価還元などの検討事項を記載 内閣府
2026年10月26日(月) 生成AIの知的財産の保護と透明性に関するプリンシプル・コードの、事業者の届出の受付を開始(ページの記載では、この日から受付。策定日は読めていない) 内閣府 知的財産戦略推進事務局

文化庁の「AIと著作権について」のページを2026年10月23日に確かめ直した範囲では、上の「考え方」「チェックリスト&ガイダンス」より新しい、文化庁自身の「考え方」の改訂版は見つかりませんでした。同じ文書には、判例の蓄積や技術の発展、海外の動きを踏まえて、必要に応じて見直す、という方針が書かれています。

原典を読む:「考え方」の中身

学習の段階(著作権法第30条の4)

条文(e-Gov法令検索)の趣旨は、次のとおりです。著作物は、そこに表現された思想や感情を、自分で味わう、あるいは他の人に味わわせることを目的としない場合は、必要と認められる範囲で利用できる。例として、技術開発や実用化のための試験、情報解析(たくさんの著作物から言葉や音、画像の要素を取り出して、比べたり分類したりすること)が挙げられています。ただし、著作物の種類や用途、利用の仕方から見て、著作権者の利益を不当に害する場合は、この限りではない。

文化庁の「考え方」の概要は、これを次のように整理しています。

  • 「享受」とは、読む、見る、聞くなどして、人の知的・精神的な欲求を満たす効果を得ること。AIの学習データとしてコピーするのは、その典型の一つとして、享受を目的としない利用として挙げられている。
  • 享受の目的が、学習などの目的と「あわせて」ある場合は、この条文は使えない。営利でなくても、研究でも同じ。
  • 享受の目的がありうる例として、特定の作品群を集めて、似たものを出力させることを目的に追加学習する場合や、一部のRAG(外部の資料を調べながら答えさせる仕組み)で、既存の著作物の創作的な表現をそのまま出力させることを目的に入力する場合などが挙げられている。
  • 「作風」は、アイデアにあたり、共通していても著作権の侵害にはならない。ただし、特定のクリエイターの少数の作品だけに絞って学習させるような場合は、享受の目的があわせてあると考えられる、とされている。
  • 「利益を不当に害する場合」の例として、AIの学習用に有料で売られているデータベースを、無断でコピーして学習に使う場合が挙げられている。クローラー(自動で情報を集めるプログラム)を断る仕組み(robots.txt、IDとパスワードの認証など)があり、将来売る予定が推測できる場合に、それを避けてコピーすることも、これに当たりうるとされている。
  • 海賊版を載せたサイトだと知りながら学習データを集めると、そのAIが出す侵害について、責任を問われる可能性が高まる。「考え方」は、そうした行為を厳に慎むべきだとしている。

もうひとつの条文、第47条の5は、コンピューターによる情報処理で新しい知識や情報を作り、著作物の利用を促す行為に付随して、軽微な利用ができるという規定です。「考え方」では、RAGなどで回答のために既存の著作物を使う行為は、この条文の要件を満たせば、許諾なしでできる場合がある、とされています。

生成物を使う段階

AIが生成したものを公表したり、売ったりする場合は、AIを使わない場合と同じ基準で、著作権の侵害かどうかを判断する、とされています。侵害になるのは、次の2つが認められ、かつ権利制限の規定の対象でない場合です。

  • 類似性:既存の著作物の創作的な表現が、共通していること。アイデアや作風が共通するだけでは足りない。
  • 依拠性:既存の著作物をもとにして作ったこと。

どちらかが認められなければ、侵害にならない、と書かれています。依拠性については、AIの利用者がその著作物を知らなかった場合でも、学習に使われたことが立証されれば、通常は認められうるなど、細かな考え方が示されています。個人が作って個人で楽しむ私的使用などは、権利制限の対象になりうる、とも書かれています。

AIで作ること自体が適法でも、できたものをアップロードするなどの利用が、すぐに適法になるわけではなく、場面ごとの判断が必要、という趣旨も書かれています。

AIが作ったものは著作物か

「考え方」の整理によると、人が何も指示しない、または簡単な指示だけで生成ボタンを押して得られたものなど、AIが自律的に生成したものは、著作物にあたらないと考えられます。一方、人が創作の意図をもって、AIを表現のための「道具」として使い、創作的な寄与をしたと認められれば、著作物になり、その人が著作者になります。AIそのものは著作者になりません。判断は、個々の生成物ごとに、個別に行われます。

寄与の判断では、創作的な表現といえる具体的な指示は、寄与があると評価される可能性を高めます。試行回数が多いこと自体は、影響しません。生成物を見ながら、指示を直して繰り返すような場合は、著作物と認められることもある、と書かれています。人が生成物に創作的な加筆や修正をした部分は、通常、著作物性が認められるとされています。

チェックリスト&ガイダンス(2024年7月31日)

「考え方」の実践版にあたる資料です。構成は2部です。

たとえば、AI利用者(事業者)向けには、使うAIの仕組みや利用規約を確認する、社員に著作権制度を教育する、生成物を使う前に既存の著作物に似ていないか検索などで確かめる、依拠性がないことを説明できるよう、プロンプトなどの生成の過程を確認できるようにしておく、といった項目があります。一般の利用者向けにも、既存の著作物に似せた生成はしない、生成物を使う前に類似性を確かめる、といった項目があります。

権利者向けには、自分の作品に似たAI生成物への対応(差止め、損害賠償などの請求がありうること)と、自分の作品が学習に使われることへの対応(robots.txtでの拒否の記載など)が整理されています。

資料の注意書きには、チェックリストを全部実施しなくても直ちに法的責任が生じるわけではなく、全部実施すれば責任を問われないということでもない、と書かれています。

最新の動き(2026年)
  • 2026年6月12日の知的財産戦略本部(首相官邸の発表ページ)で、「知的財産推進計画2026」が決まりました。AI関連では、AIの学習内容や生成の過程への懸念、生成物が他人の権利を侵害していないかという懸念に応えるため、知的財産の保護と透明性についての「プリンシプル・コード」を策定する方針とされています。また、知的財産の侵害が起きたときに、損害の回復と侵害者の利益の剥奪を確実にする民事の救済措置の導入と、集団で権利を行使できる仕組みの検討を、スピード感をもって進めるとされています。
  • 2026年7月14日の人工知能基本計画(第Ⅱ期)の本文には、知的財産の保護と、利用に役立つ透明性の確保、コンテンツを持つ人への対価の還元などの推進、生成AIによる知的財産権の侵害の相談体制の整備、声の無断利用についての不法行為法の解釈ガイドラインの作成が書かれています。AIで生成された製品やサービスの知的財産権のあり方の検討も挙がっています。

これらは、方針や検討の段階の記載です。

そのうちプリンシプル・コードについては、内閣府 知的財産戦略推進事務局のページ(2026年10月23日に確認)に、日本語版の本体PDF、概要開示対象事項の具体例、届出様式が載っています。ページには、届出の受付を2026年10月26日(月)から始める、と書かれています。本体PDFの要約を読んだ範囲では、次のことが書かれていました。

  • 対象は、生成AIを公に提供する「生成AI開発者」と「生成AI提供者」。海外の事業者でも、日本向けに提供していれば対象になる。
  • このコードを受け入れる事業者は、受け入れること、各原則をどう実施しているか、実施しない原則があればその理由を、自社サイトなどで公表し、所定の様式で届け出ることが期待される。見直しは原則、毎年。
  • 内閣府の事務局は、届出の中身を審査しない。

本体PDFには、策定した日と、決定した主体は、読んだ範囲では書かれていませんでした。本体PDFの第1章には「法的拘束力を有する規範ではない」と書かれています(要約で確認)。営業秘密や安全性・セキュリティに関する機微な情報の強制的な開示を求めるものではない、とも書かれています。

くらしや仕事への影響

見立てです。「AIが学ぶこと」と「AIで作ったものを使うこと」を分けて考える、というのが、文化庁の整理の一番大事な点だと思います。学習の段階が原則として認められる場合があっても、生成物を公開したり売ったりする段階では、既存の作品に似ていれば別の判断になる、と読めます。

見立てです。仕事で画像や文章を生成して使う人にとって、実務上の手がかりは、公開や納品の前に類似を確かめること、どのAIを使ってどんな指示をしたかの記録を残すこと、の2つだと思います。チェックリストにも、どちらも書かれています。

見立てです。クリエイターの立場では、作品の公開の仕方(robots.txtの設定、ログインが必要な場所に置くなど)が、法律上も意味を持ちうる、と資料にあります。ただし、効果は個別の事情で変わります。作品を守る方法は、相談窓口や専門家と一緒に考えるのが確実だと思います。

気をつけること

出典

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